日本スペースガード協会
(なお、以下の軌道計算は、すべて吉川真が行ったものです。)
この小惑星は、LINEARプロジェクトによって、2002年7月9日に発見されました。 その後、数カ所の天文台による観測のデータも含めて20個ほどの観測データ を用いて国際天文学連合(IAU)のマイナープラネットセンターが軌道を計算し、 7月14日付けのMinar Planet Ekectric Circularにて情報がアナウンスされました。 ここでアナウンスされた軌道に基づいて軌道計算を行い、地球との距離をグラフ にしたものが、図1です。
図1

この図では、横軸が年(西暦)で、縦軸が地球と小惑星との距離になっています。
距離の単位は天文単位(1天文単位は約1億5千万km)です。
この軌道決定がなされた時点では、2019年に特に地球に接近するものではなかった
ことが分かります。
その代わり、2047年や2058年に地球に接近するという結果になっています。
7月23日頃から、この小惑星2002 NT7が2019年に地球に衝突する可能性があるという
ニュースが世界的に報道され始めました。これは、7月18日頃から、イタリアの
研究者が作っているホームページ(NeoDys)とアメリカのジェット推進研究所(JPL)
のホームページにこの小惑星が衝突の可能性があるとして掲載されていたのを、
報道関係者が気が付いて記事にしたものと思われます。
この時点では軌道決定精度が悪く軌道予測も正確にできませんから、特にニュースに
する意味はありません。単に、今後、この小惑星を注意して観測しましょうという
程度に受け取るべきものでした。
7月24日現在でNeoDysに掲載されていた軌道要素を使って、図1と同じ軌道計算を
行った結果が次の図2です。
図2

この図を見ると、2019年くらいに確かに地球に接近していることが分かります。
この計算では、2019年1月29日に地球に0.056天文単位(約840万km)まで接近
することになっています。(この計算結果は、NeoDysに掲載されていたものと
ほぼ同じです。)
さらに、この接近時の軌道を示したものが次の図3と図4です。図3は黄道面
(地球の軌道面)に投影したときの様子で、図4は、黄道面にほぼ垂直な方向
から見たときの図です。○に+を重ねて描いたものが、最接近時の地球の位置
で、それを通る線が地球の軌道です。また、*印が付いている軌道が小惑星の
軌道で、この図では1日おきに小惑星の位置が*印として示してあります。
この小惑星の軌道上で1カ所だけ*印の代わりに○が描いてありますが、この
○の地点で地球と最接近することになります。投影した図であることと、地球
も動いているので、必ずしもこの図の地球の位置に最も近いところが最接近に
はなっていないことに注意してください。なお、地球からでている点線は、
太陽の方向を示します。
図3

図4

これら図を見ると、最接近と言っても地球と十分離れているので衝突など心配
しなくてよさそうに思えますが、実は、地球の軌道とこの小惑星の軌道とは
非常に接近しています。つまり、これらの図で、地球と小惑星の軌道が交差し
ている点は見かけ上重なっているのではなくて、本当に重なっているのです。
ですから、タイミングが合ってしまうと、小惑星と地球とが衝突する可能性
もあったわけです。
これらの図で最接近の時刻に小惑星は○の印のところにいると書きましたが、
実は、軌道決定誤差のために、この○印の前後にある程度広がった領域に
いるとしか言えません。そのために、「衝突の可能性がある」と言われたわ
けです。
上記のNeoDysのデータと同じ時にJPLのホームページでもこの小惑星の軌道が
掲載されていました。その軌道データを使って計算した結果が、次の図5です。
ちなみに、7月24日のJPLやNeoDysの軌道決定には、102個の観測データが使わ
れています。
図5

この図と図2とを比べると、ほぼ同じ結果になっていることが分かると思い
ます。ただし、細かく見ますと全く同じわけではありません。これは、DeoDysと
JPLとで軌道決定値が微妙に異なるためです。
8月1日には、JPLはこの小惑星は今後100年間は地球に衝突する可能性は無いと
発表しました。8月初めの時点では、観測数が180余りにまで増えています。
また、観測の期間も約1ヶ月となり、それなりに軌道決定精度が上がってきました。
この時点での軌道決定値を用いて軌道計算をした結果が図6です。
図6

地球との距離の変化の様子は、図2や図5と似ていますが、極端に地球に接近
するケースは無くなったことが分かります。ということで、今後100年間は
この小惑星が地球に衝突する心配をする必要がなくなりました。
ちなみに、2019年の接近については、2019年1月16日に地球に約5千万kmまで
接近しますが、これではもうニアミスとも言えないですね。
参考までに、図3・図4と同様の図をこの2019年の接近について描いてみますと
次のようになります。
図3や図4と比べると、軸のスケールがかなり大きくなっていることに注意して
ください。また、小惑星の位置を示す*印は5日ごとの位置になっています。
図7

図8

最後に、2002NT7の軌道図を描いてみますと、次のようになります。
図9

左側が黄道面に投影した図で、右側が黄道面に垂直な面に投影した図です。
この小惑星の軌道が、かなり傾いていることがわかります。
(惑星の軌道は、水星から木星までを描いています。)
以上のように、近い将来についてはこの小惑星の地球衝突を心配する必要は ないのですが、地球の軌道とこの小惑星の軌道とは最短で30万kmくらいしか 離れていません。つまり、この小惑星を引き続き観測して軌道決定精度を 向上することは、遠い未来の人類のために重要なことなのです。