天体衝突を考える

               洲崎 保司((株)ユニバース)

             天体衝突を考える

               洲崎 保司((株)ユニバース)


1 はじめに

 2000年3月に日本スペースガード協会主催で行われた「アリゾナクレーター探訪と天体衝突を考える旅」に参加した。太陽系内の衝突としてはごく小規模なものと言われるクレーターではあったが天体衝突の脅威を実感するに十分であった。 このクレーターを見て思い浮かぶのは酷似の月面のクレーターである。アリゾナクレーターの大きさは直径約1kmであるがこの規模以上のクレーターは月面には約30万個(片面)存在すると言われている。太陽系内での地球と月は天体衝突のターゲットとしては同一環境にあったと考えられることから月より大きい地球は月以上の衝突を受けてきたはずである。アポロ計画の研究で月面のクレーターのほとんどは天体衝突によってできたものでありその生成は30億年以上の古い年代に頻度が高く今から約20億年以降はほぼ一定化したことが明らかにされた。頻度は低下したとは言え、天体衝突現象は現在もなお厳然と続いているということである。衝突ターゲットとしての月と地球の違いは何かを考えるとそれは両天体の“衝突断面積”の違いにあると言える。衝突天体から見た被衝突天体の衝突断面積は両天体の幾何学的大きさと両天体間に働く重力に関係し、衝突天体の近似的無限遠での相対飛来速度との関数となる。

 本論は上記の視点から二つの天体間における衝突断面積の定義を行い、月と地球および太陽系内で最大の惑星である木星と最大の天体である太陽の衝突断面積の計算と比較を行った。その結果にもとづき月と地球への天体衝突の頻度の違いを衝突断面積の視点から比較考察した。木星および太陽の衝突断面積は広大であり、両天体への天体衝突現象の観測は地球への天体衝突の現在の環境を短期間に解明するのに有効ではないかということを論じた。また太陽近傍での天体検出の可能性にも言及した。スペースガードへの関連も含め天体衝突問題への1課題提起としてご報告したい。衝突断面積の概念にもとづく天体衝突問題の検討は1950年代初頭にE.J.Opikにより行われている。Opikは重力を考慮した天体の衝突断面積と太陽系内小天体の流束密度の想定とから太陽系内の小天体と惑星の衝突確率を論じている。1980年代になってD.I.SteelとW.J.Baggaleyは同じ概念のもとAten,Appollo Amor小惑星と惑星の衝突確率を論じている。


2 天体の衝突断面積

 ある天体Aに対し近似的に“無限遠”といえる遠方より速度v∞で飛来する天体Bの衝突を考える。天体A,Bは球形で重心は球心にあるとし、Aの半径をr1,質量をm1,Bの半径をr2,質量をm2とする。 天体Bの天体Aに対する軌道運動の2次元の面内で天体Aの中心を原点において天体Bの運動を考えるとき二つの天体の力学的エネルギー和Eが正のとき離心率eはe>1となりBの軌跡は双曲線を描く。“無限遠”から飛来する天体Bの軌跡は天体Aとの2体関係のもとでこの条件を満たす。

 ここで衝突を二つの天体の表面が接触する以内の軌道条件での事象と定義すれば天体Bの軌道の天体Aに対する近日点で二つの天体A,Bの表面が接触するような軌道を描いて天体Bが飛来する場合の軌道を境としてそれ以内の距離内に軌道が入る場合に衝突が起こることになる。したがって天体Bから見た天体Aの衝突断面積は上記条件下で飛来する天体Bの軌道(双曲線)の漸近線に天体Aの中心から垂線を下ろしたときの垂線の長さ(衝突パラメータ)ρを半径とする円の面積として定義される。以上の関係を図1に示す。

衝突断面積σは
   σ=πρ          (1)
で表される。ρは天体A,Bの大きさr、rと双曲線軌道の幾何学的関係図からも導出できるが角運動量の保存則、すなわち
 ρv =(r+r)v     (2)
の関係を入れることで簡易に導かれる。ここにv0は天体Bの天体Aに対する近日点距離が(r+r)のときの近日点での軌道速度を表し
=√[v+{2G(m+m)}/(r+r)] (3)
で与えられる。Gは万有引力定数を表す。(1)(2)(3)式より
σ=π(r+r[1+{2G(m+m)}/
            {(r+r)v}]   (4)
が導かれる。
 (1)〜(4)式により天体Aを月と地球および太陽系で最大の惑星である木星と最大の天体である太陽とし、天体Bを衝突天体として半径r2が1km、密度をξとしてξ=3gcm−3を仮定し、さらに天体Bの無限遠速度vを変数として天体Bから見た天体Aの衝突断面積σを計算した結果を図2に示す。衝突断面積σは天体Bの無限遠からの飛来速度vに対して特徴ある変化を示す。ある速度を境として低速度で急激に断面積は増大する。この速度を仮に境界速度vとするとvはほぼ各天体の脱出速度と等しいことが分かる。すなわち太陽の場合で617.5kms−1、木星の場合で59.5kms−1、地球の場合で11.2kms−1、月の場合で2.4kms−1である。vを境としてそれ以下の速度で断面積は急増する。図で明らかなように天体の衝突断面積は衝突天体の大きさと衝突天体の無限遠速度に大きく依存する。

 ところで地球など惑星と月への天体衝突を考える場合に重要なことは衝突および被衝突対象天体のいずれも太陽の重力圏内にあるという点である。したがって厳密には2体関係で衝突を論ずることはできないのであるが“作用圏”の考え方があり、天体の大きさに対応して2体近似の成り立つ範囲が存在する。太陽―地球系における地球の作用圏の大きさreは
    r =(m/m(2/5)d    (5)
で表されることが知られている。
ここにmは太陽の質量、mは地球の質量、dは太陽と地球の重心間の距離を表す。式(5)により地球の作用圏reを計算すると93万kmとなる。同様の関係が地球―月系にも成り立ち月の作用圏rを計算すると6.5万kmとなる。同様に太陽―木星系における木星の作用圏rを計算すると4820万kmとなる。

 作用圏の考え方によれば天体Aの作用圏に入った天体Bの軌道は天体Aの重力によって軌道が変更され再び作用圏の外に出て行くので、天体Aの作用圏内を運動する間の天体Bの軌道は近似として天体Aを中心とする双曲線軌道を描くとして扱うことができる。このとき天体Bが作用圏に到達したときの速度ベクトルの方向を双曲線軌道の方向とし、その速度vを双曲線軌道の無限遠の速度として近似する。ただし作用圏の大きさは天体Aの大きさに比して十分大きいことが前提であるが上記数値はこの条件を満たすといってよいであろう。以上の考え方により地球など惑星や月への微小天体の衝突を2体問題近似で扱うことができる。  


3 地球と月の比較

 図2で地球と月の衝突断面積(地球:σ、月:σとする)を比較すると衝突天体の無限遠からの飛来速度vが約20kms−1より大きい場合には両天体の衝突断面積の比σ/σは両天体の幾何学断面積の比である約10倍であることがわかる。vが20kms−1以下の場合にはしだいにその比は大きくなり、vが1kms−1以下では約100倍となる。

 ところでスペースガードの視点で指摘されている地球との衝突の可能性のある天体としては地球軌道付近に飛来するアポロ、アテン、アモール軌道の小惑星、大きく軌道を変える可能性のある木星との共鳴軌道に落ち込む小惑星、それ以外の短周期および長周期の彗星、存在が予測されているオールトの雲の彗星およびカイパーベルト天体からランダムに落ち込んでくる天体、太陽系空間を漂う隕石や星間塵などが上げられている。これらの天体は惑星からの摂動を受けて複雑に軌道を変えることから長期的に見ると地球付近にランダムに飛来すると見なされて地球との衝突は確率的な問題として扱うことができると考えられている。上記天体が地球軌道付近に飛来するときの速度は小惑星の場合でおよそ5〜40kms−1、彗星の場合で20〜60kms−1となることが知られている。これらの速度は現在の太陽系環境のもとでのものであるが太陽系の生成の初期には地球の公転軌道と同じ軌道を同じ向きに周回する微小天体が多数あったと思われる。そのような天体は地球や月に対し相対速度は微速であり、地球も月も大きな衝突断面積を有していたはずである。天体の数も多かったであろうが、そのことと月面に見られる初期での生成クレーターの頻度の高さには関係があると考えられる。現在の太陽系空間における衝突の危険性のある天体は上記のいずれかとすれば、地球(月)の作用圏に達するときの速度は代表的な天体である小惑星の場合で5〜40kms−1、彗星の場合で20〜60kms−1と見なすことができる。このことを図2の関係に照らしてみると飛来速度が20kms−1を越える彗星に対しては地球と月の衝突断面積の比(σ/σ)はほぼ両天体の幾何学断面積の比である約10倍となると言える。小惑星に対して飛来速度が20kms−1以下の場合には地球と月の衝突断面積の比(σ/σ)は幾何学断面積の比より大きくなり最大で約100倍となる。月および地球への衝突天体が過去小惑星と彗星でいずれの数が優勢であったかによって月面に見られるクレーターから地球への衝突頻度を換算する倍率が異なってくる。アポロ計画の研究で月面のクレーターの生成頻度は現在より20億年前以降はほぼ一定化したということが明らかにされている。したがって地球と月の天体衝突に関する環境はラフに見れば20億年前から一定であったと考えられる。衝突天体の内小惑星と彗星の数とその比率のデ−タおよび月面上の20億年より新しい地形(一部地形にそうした条件を満たす場所のあることが知られている)に残されたクレーターの数の詳細なデータと上記衝突断面積の関係とから地球への天体衝突の環境の過去と現在の実態をより精度よく推測できるのではなかろうか。加えて月面への微小天体衝突現象の現状を連続観測できれば一層精度を上げることができると思われる。衝突断面積で月は地球の1/10以下ではあるが、大気がなく常にその全表面が見渡せる特徴を生かし月面への微小天体の衝突をビジュアルに観測する方法が考えられる。微小天体の衝突現象が月面での発光現象として捉えられているのでこのような方法での検出も考えられる。衝突断面積の計算結果から現時点で言えることは、過去20億年間地球は月の10倍以上、100倍以内の数の天体衝突を受けてきたはずであるということである。


4 木星への天体衝突

 シューメーカー・レビー第九彗星の衝突で注目された木星は太陽系最大の惑星であり衝突断面積は地球よりはるかに大きい。図2に示すように木星の衝突断面積は、無限遠からの飛来速度が100kms−1を越える天体に対しては地球の約100倍であるが飛来速度が30kms−1以下では1000倍を越える。太陽からの木星軌道までの距離は地球の5倍以上であり太陽を廻る公転軌道速度は地球の約1/3であることを考慮すると飛来天体と木星の相対速度は地球に対するものよりはゆっくりしたものであろうと考えられる。したがって実効の衝突断面積の比は上記数値以上となるであろう。衝突の危険性のある小天体の密度が木星軌道付近と地球軌道付近で同じかそれに近いレベルにあるとすると、地球に対して数百年から数千年に1回起こるような天体衝突が木星では1年に1回程度起こる可能性があることになる。

 木星への天体衝突現象を、木星を廻る軌道上から詳細に観測することができれば短期間に衝突危険天体の密度のより詳細なデ−タが得られる可能性があると言える。 木星でもうひとつ注目すべきことは作用圏のことである。   前記したようにその大きさrjは4820万kmである。  作用圏の大きさだけから言えば木星よりは小さいが巨大惑星で、木星の外にある土星、天王星、海王星のそれは木星より大きい。ちなみに土星の作用圏の大きさ(半径)は5465万km、天王星は5184万km、海王星は8677万kmである。しかるにこれらの作用圏の大きさが太陽の中心に対して張る立体角でみると木星が最大となりその大きさは1.2x10−2strになる。  これは全立体角4π strの約1/1000に相当する。これは木星の軌道半径を半径とする球面を通過する天体(長周期彗星など)の1/1000は木星の重力によって軌道を大きく変えられるということを意味する。さらに言い変えれば地球へ衝突ということに関して衝突の恐れのない安全軌道にある天体でも木星とかかわることによって軌道を乱され衝突危険天体に変貌する確率が無視し得ない大きさであることを意味する。


5 太陽への天体衝突

 図2に示すように太陽の衝突断面積は木星のそれよりさらに広大である。衝突天体の無限遠からの飛来速度v∞が600kms−1を越える場合には断面積は幾何学断面積にほぼ等しく地球のそれの約1万倍、木星の100倍であるがv∞が600kms−1以下からしだいに断面積は増大し100kms−1で地球の50万倍、10kms−1で3000万倍になる。太陽への天体衝突の頻度がいかにあるかは衝突を考える対象天体の多くがおそらくは太陽を廻る軌道上にあることを考えると地球など惑星への衝突との単純な比較はできないと思われる。しかし、衝突の可能性のある微小天体の実態が必ずしも十分解明されているとは言えない状況を考慮すると太陽の有するこの広大な衝突断面積との比較で地球上で数100万年から数1000万年に1回起こるような天体衝突が太陽に対しては1年に1回程度起こっているという可能性も否定できないと言えるのではなかろうか。
  
 太陽への衝突が考えられる天体としては、太陽を廻る軌道にある天体が木星など巨大惑星からの摂動を受けて公転軌道を外れ太陽への衝突軌道にのる場合、オールトの彗星雲またはカイパーベルトにある天体が他の天体からの摂動で乱されて太陽に向かって落ち込んでくる場合、太陽系外から飛来する天体、小惑星どうしの衝突によってランダムな方向に運動するようになった天体の一部などが考えられる。しかしこれらに該当する天体の数がいかにあるかは精確には把握されていない状況にある。言い換えれば太陽への天体衝突の観測から、地球への衝突の危険性もある、上記天体に関するより精確なデータが得られる可能性があると言えるのではなかろうか。最近太陽への衝突軌道にあると推定される太陽直近に現われた彗星が太陽観測衛星SOHOによって観測されている。それによれば1995年12月に打ち上げられ観測を開始して以来2000年8月までの約5年半の間に太陽近傍で200個の彗星を検出しておりそのほとんどが検出から数時間以内に消滅したとのことである。太陽に衝突して消滅したか、太陽の強い輻射を受けて彗星の特徴であるガスを噴出しそれが蒸散枯渇したかあるいは天体そのものが蒸発消散したかのいずれかであろうと思われる。100%衝突によって消滅したとすれば1年間に約40個もの彗星衝突が観測されていることになり上記衝突断面積の大きさがまさに高い頻度の衝突を引き起こしていることになる。ところで近日点が太陽面にごく近い軌道の天体、あるいは衝突天体は太陽の強い輻射を受けていかなることになるのであろうか。
  
 太陽からの距離に対して天体の表面温度Tがどのようになるかをステファン・ボルツマンの法則を適用して求めると次式が導かれる。
    T4=q(1−γ)/σR  (6)
ここにTは太陽近傍天体の表面温度(華氏温度)、qは単位立体角あたりの太陽の放射エネルギーで3.05x1032erg s−1 str−1、γは天体表面の反射率、σはステファン・ボルツマンの輻射定数で5.67x10−5erg s−1cm−2 deg−4、Rは太陽の中心からの距離を表す。天体表面の反射率γとして月面の反射率と等しい0.07を仮定して式(6)により距離Rと温度関係を計算すると図3となる。なお図の温度tはt=T−273.15により摂氏温度に換算している。大気を持たない月と水星および大気の希薄な火星表面の知られている昼の温度を記入した。これらの天体の表面温度はおおむね計算曲線にのっていることが分かる。この図より接近天体の表面温度は距離が1000万kmで約1000℃、500万kmで2000℃、100万kmで4000℃となる可能性のあることが分かる。多くの物質が1000℃〜3000℃で沸騰気化することを考えると太陽に1000万km以内に接近する天体は一部もしくは全体が蒸発、ガス化しさらにはプラズマ化することもあり得ると思れる。ガス化した場合には可視光域で大きな反射断面積を持つことになるので強烈な太陽光に照らされて微小天体であっても明るく輝くことで検出できる可能性が考えられる。SOHOで検出されている彗星はそのような天体である可能性があるといえるのではなかろうか。ガス化またはプラズマ化する前後の天体は表面温度が数1000℃に加熱されることから強い赤外線を放出するはずでありスペクトル分布で太陽輻射の弱くなる近赤外線の波長で皆既日蝕時あるいは大気圏外からの観測を行えばこれら天体を検出できる可能性も考えられる。プラズマ化した場合には太陽面の磁場との相互作用が考えられる。大きな運動エネルギーを有するプラズマ化した膨張天体と太陽面磁場との相互作用ではいかなることが起こるであろうか。

 もうひとつ太陽への天体衝突で注目すべきは断面積が大きいことの他に強大な重力によって衝突速度がきわめて大きくなる点である。その速度は最低でも脱出速度である617.5kms−1を越える。有名なシューメーカ・レビー第九彗星の木星への衝突速度は約60kms−1であったと言われているが上記速度はこの10倍を越える。速度が10倍ということは運動エネルギーでは100倍ということであり、同様規模の天体が太陽に衝突した場合にはシューメーカ・レビー第九彗星の木星衝突での100倍のエネルギー放出が起こることになる。

 衝突天体を半径r2の球形と仮定して、密度をξとすれば衝突によって放出されるエネルギーEは次式で表される。  
 E=(2/3)πξr (7)    
太陽への衝突を仮定し速度は最低の v=617.5kms−1(脱出速度)で衝突するとして(7)式により衝突天体の大きさrと衝突によって放出されるエネルギーの大きさEの関係を計算した結果を図4に示す。  比較のため太陽面でときたま起こる大規模フレア爆発のエネルギーレベルと毎秒あたりの太陽の全放射エネルギーレベルを記入した。 衝突天体の大きさが半径で約2kmでその衝突エネルギーは大規模フレア爆発のエネルギーを上回ること、大きさが半径約5km(直径で10km)で毎秒あたりの太陽の全放射エネルギーを上回ることがわかる。実際のエネルギー放出は太陽面の微小面積部で起こるので密度では太陽面の放射をはるかに上回るエネルギー放出がなされることになる。仮に直径100km、面積にして約8x10kmの範囲で衝突エネルギーの一次的な爆発放出がなされるとするとそれは太陽の全表面積約6x1012km2に対し8x10/6x1012=1.3x10−9の面積内で起こることになる。

 言い換えれば、仮定(直径100kmの範囲内で爆発)が正しければであるが、直径約10kmの天体の太陽への衝突によって放出されるエネルギー密度は太陽表面での毎秒あたりの放射エネルギー密度の109倍(10億倍)にもなるということである。このように大きなエネルギー放出がなされる可能性を考えると太陽面の強烈な輝きと擾乱のなかにもかかわらず注意深い観察(例えば分解能0.1秒角以上で太陽面全面の連続観測)を行えば衝突現象を見出せる可能性があるのではないかという思いに至る。

 衝突による放出エネルギーが太陽面にいかなる物理現象を引き起こすか、それが観測にかかるような現象となり得るかは明らかではないが天体衝突に関する従来知識からの類推であるが可能性のある現象として、衝突爆発の衝撃による太陽面の地震動(類似の現象で太陽面でのフレア爆発に伴って発生したとされる地震動波紋がSOHO衛星で観測されている)、衝突天体の爆発による閃光、太陽面での核融合反応の誘発(衝突爆発によって太陽面プラズマが圧縮され、かつ衝突地点のプラズマ温度が数100万度から数1000万度を越えるに至るような衝突があった場合)による2次爆発の閃光、衝突天体物質の爆発飛散によって生ずる太陽面大気の組成変化による異変の痕跡などが考えられる。さらには前記したように太陽の強い輻射を受けて太陽衝突直前に衝突天体がガス化またはプラズマ化し衝突する状況も考えられる。このような場合、いったい太陽面にいかなる現象が引き起こされるのであろうか。 

 太陽の研究は近年広い波長域での観測と宇宙からの観測により、めざましい進展が見られていると言われているが太陽面で起こる現象の中に天体衝突が関与している現象はないのであろうか。もし太陽面への衝突現象が観測にかかる物理現象を引き起こすとするならばこの観測を行うことで衝突天体の大きさと飛来の頻度、空間密度などのデータが得られる可能性があり、スペースガードの視点からも有用なデータが得られるのではなかろうか。また前記したように太陽近傍では飛来天体は過熱されて近赤外線で強く輝くであろうこと、一部がガス体化して反射断面積が増大化する可能性のあること、頻度の高い接近天体の存在が想定されること、太陽に近い分だけ可視光域で見ても明るく輝くであろうことなどを考察すると太陽近傍の空間領域は微小天体検出の可能性の高い場所のひとつと言える。SOHOで検出された太陽近傍彗星の頻度(年間約40個≒10日に一個)からするとたまたまの皆既日蝕時にさえ検出される可能性があると言えるのではなかろうか。衝突の規模によっては衝突がトリガーとなって太陽自身の活動に異変を来すような可能性はないのであろうか。太陽活動に異変を来すような天体衝突があるとすれば地球への影響も懸念されるのでスペースガードの視点から太陽への衝突の可能性のある天体の監視も必要ということになってくると思われるがいかがなものであろうか。


追論

太陽活動の謎として現在もなお明確な結論の得られていない問題として、コロナの起源と100万度を越えるコロナ加熱の機構およびフレア爆発の原因と、大規模なものでは1032 ergに達するフレア爆発のエネルギーがどこから生ずるのかということが問われている。一般には、コロナは太陽内部から噴出した物質が太陽面の磁場との相互作用で加熱されて太陽周辺に広がったものとされ、フレアはコロナ磁場に蓄えられたエネルギーが磁気不安定によって突発的に開放される現象と説明されているがそのメカニズムとエネルギー源、フレア突発の引金は何かなどの詳細は不明であると言われている。この問題に対し、天体衝突の関与を考えるといくつかの点で合理的説明が可能となる。このことは本論でも若干言及したところである。 

 コロナに関しては本論で述べたように太陽に衝突するか太陽表面をかすめるような軌道で飛来する天体太陽接近時に蒸発気化からブラズマ化しコロナとなる可能性が考えられる。天体の軌道運動速度がベースとなることからプラズマ化した状態でもその速度は600kms−1を越える。この運動速度が運動温度としてコロナの高温のベースとなっていると考えられないであろうか。さらに飛来天体がプラズマ化した段階で太陽面磁場との相互作用が生じプラズマがかき乱されるとともに一部は加速され太陽系内空間に噴き戻されるとともに一部は減速されて太陽近傍を廻る軌道内に捕獲されるこというメカニズムが考えられる。 

 フレア爆発に対しては衝突天体が直接の起源となる可能性とプラズマ化した衝突天体が太陽面磁場と相互作用を引き起こし磁場の蓄積エネルギーと合体して爆発を誘発する、引き金の役割を果たすケースとが考えられる。フレア爆発に天体衝突の関与があるのではないかと思わせられる根拠として、爆発が極めて短時間で起こること、爆発の規模にいろいろなレベルがあり規模の小さいものほど数が多いこと、フレア爆発のエネルギーレベルは1028〜1032ergと言われているが本論の図4に示したごとくこのエネルギーレベルに見合う衝突エネルギーを開放し得る衝突天体の大きさは半径で100m〜2km程度である。この規模の天体が地球に衝突する頻度は100m級のものでは10年に1回 、2km級のものででは10 年に1回程度と推定されている。本論に示した図2で太陽と地球の衝突断面積を比較すると、仮に飛来天体の無限遠速度が1〜10kms−1のところで見ると、その比は〜10であることがわかる。やや乱暴ではあるが(本論でも述べたごとく太陽と地球では条件が異なる面があり正確には同一比較はできないと思われるがあえて比較する意味で)仮にこの比率から太陽への天体衝突の頻度を逆算すると100m級のものでは1年に1000回、2km級のもので1年に10回という数字が得られる。観測されているフレア爆発の頻度は年間数100回から10000回程度であるので大きくは矛盾しない結果となる。

 観測されている事実からするとフレアは、特定の場所、とくに黒点近くに多く発生することが知られており天体衝突ではこの説明は難しいが磁場との相互作用でプラズマが誘導されて衝突するような状況が考えられないであろうか。天体の衝突がすべての原因というには矛盾する現象もあり断言できる説とも言えないが太陽面で起こっている現象に天体衝突の関与はまったくないとすることも逆に多くの課題をもたらすような気がするがいかがなものであろうか。

4 おわりに

 飛来天体が双曲線軌道にあることを前提に“衝突断面積”の概念のもとに月と地球および木星と太陽の衝突断面積を計算し比較考察した。衝突断面積の視点から地球が過去にどのような衝突を経てきたかまた現在どのような環境にあるのかを月のクレーターとの比較で推定する方法と条件を考察した。さらに現状の衝突環境を調べる方法として広大な衝突断面積を有し、頻度の高い天体衝突が予測される木星と太陽への天体衝突を観測することの有効性と可能性を論じた。地球への天体衝突に対する問題はスペースガードの活動とともに解明が進んでおり現在では衝突危険天体の検出観測に力が注がれているが、実態として、その数はいくらあるのか、どれだけの数の天体を検出すれば安心できるのか、新たに補給される天体があるとすればその検出のための観測をどのような方法と規模で行えばよいのか、見落としている天体はないのかなどが問われるところである。そのためには現在の太陽系内の天体衝突環境がいかにあるかのより精度の高い解明も重要な課題であると考えるものである。そのような視点で本論がいささかなりとも役立てば幸いである。

 「アリゾナクレータ探訪と天体衝突を考える旅」で得た刺激と天体衝突は宇宙現象としても何か深遠な意味があるのではという思いから本論を考察するに至ったがこの旅を主催され天体衝突問題についていろいろな視点から教示をいただいた日本スペースガード協会理事の松島弘一団長はじめ同行諸氏にお礼申し上げます。また日ごろより天体衝突問題はじめ天文・宇宙への啓蒙をいただいている日本スペースガード協会の磯部秀三理事長に感謝申し上げます。

参考文献  
(1)「巨大隕石が地球に衝突する日」 磯部秀三 KAWADE 夢新書
(2)「いつ起こる小惑星大衝突」 地球衝突小惑星研究会 BLUE BACKS 講談社
(3)「彗星大衝突」 ジョン・グリビン、メアリー・グリビン:磯部_秀三、吉川真、矢野創 訳 三田出版会
(4)「アリゾナクレーター探訪と天体衝突を考える旅」 −参考資料― 松島弘一
(5)「地球の破滅を救う小惑星の監視作戦」 松島弘一 天文と気象 1981年9月号
(6)「宇宙からの衝撃」 上下 S.V.M.クリューブ、W.M.ナピエ : 藪下信 訳 地人選書
(7)「彗星の話」 冨田弘一郎 岩波新書
(8)「彗星への旅」 デイビット・H・レビー:大地舜 訳 PHP
(9)「特集 衝突」 数理科学 6/1993 サイエンス社
(10)「天体力学入門(上)」 長沢工 地人書院
(11)「力学(改定版)」 原島鮮 裳華房
(12)「天体と軌道の力学」 木下宙  東京大学出版会 
(13)「天文学講話」 古在由秀 丸善ライブラリー
(14)「Collision probabilities with the planets and the distribution of interplanetary matters」E.J.Opik Proc.R.I.A. Vol.54,Sect.A 1951.
(15)「Collisions in the Solar System-1 Impact of the Apollo-Amor-Aten asteroids upon the terrestrial planets」, Duncan I. Steal and W.J.Baggaley Mon.Not.R.astr.Soc, 1985.
(16)「地球に接近する小天体」 中村士、吉川真 科学 Vol.63 No.6 1993 :文献(14)(15)の紹介と解説がある。  
(17)「月の科学:月探査の歴史とその将来」 Paul D.Spudies 水谷仁訳 シュプリンガー・フェアラーク東京
(18)「Optical Detection of meteoroidal impacts on the Moon」 J.L.Ortiz, P.V.Sada, 他、NATURE Vol。404,22June、2000
(19)「第二の地球はあるか」 磯部_秀三 BLUE BACKS:恒星(太陽)近傍天体の赤外線による探知の可能性の記述あり
(20)「赤外線工学」 Hennry L.Hackforth  和田正信 中野朝安 共訳 近代科学社
(21)「特集 太陽に挑戦」宇宙と天文 No.4 誠文堂新光舎
(22)「太陽」平山淳 編 現代天文学講座5 恒星社
(23)「太陽 研究の最前線に立ちて」 桜井邦朋 サイエンス社
(24)「SOHOが200個目の彗星を記録」 月刊天文 2000年11月号、85p出典:SOHOホームページ http://sohowww.nascom.nasa.gov/ NASA科学ニュース 8月28日
(25)「太陽活動の謎にせまる」 小杉健郎 宇宙研究の現場から −宇宙と地球の起源−(下) 日本学術振興会

     洲崎 保司さんのプロフィール

皆様はじめまして洲崎と申します。
私は現在、小さな会社(株)ユニバースを自営していますが、宇宙と植物への光(レーザー)応用を目指した仕事をしています。自立する前は(株)日立製作所で約30年間、人工衛星、月レーザー測距システム、レーザートラッキング装置などの開発、実験の仕事に従事してきました。 仕事を通じて旧東京天文台、海上保安庁水路部、航空宇宙技術研究所、通信総合研究所などの天文、宇宙に関係するかたがたといっしょに仕事をする機会が多かったことから天文、宇宙の問題にはとくに興味をもつようになりました。

 本論作成のいきさつは本論にも記しましたが直接のきっかけは当協会主催で2000年3月に行われた「アリゾナクレーター探訪と天体衝突を考える旅」に参加し、実際の衝突クレーターを見て天体衝突現象の脅威を実感し、松島団長はじめ同行諸氏のお話を聴き、いろいろいろと刺激を受け、思いめぐらす中で浮かんだアイデアを“考える旅”のタイトルに誘われてまとめてみたというところです。衝突断面積の考え方は物理学では極微世界の現象でいろいろ論じられておりますが同様の考え方を巨大スケールの天体衝突に適用することで新しい視点が得られるのではという思いもありました。有益な論か否かみなさまのご意見いただければ幸です。
 天体衝突問題については天体衝突が宇宙における基本的な現象としてあるということは古くから認知されていたにもかかわらず長い間、地球への衝突とその危険性という視点で、問われることなくあったのはなぜかということに興味引かれます。危険性を認識することなく知らないで済まされていたらそれはそれで良かったと言えるのかも知れませんが、幸か不幸か人類がこの危険性を知るに至った現在においては、この問題の実態を解明し、危険があればそれを回避するところまでの研究と対策を進めることは人類の宿命であり、責任であろうと考えるしだいです。