News and Information on Asteroids and Other Minor Bodies
No.01-03(通算35号)
2001-07.20発行
特定非営利活動法人
日本スペースガード協会


今月のイメージ

 通りかかった月がたまたま太陽の視線方向を横切り、ごく短い時間であるが、太陽を完全に遮ってしまう。はなしはそれだけのことであるが、その一瞬の光景を見るために世界の果てまでも、多大の時間と経済的負担もものともせず出向いていく。日食病患者と自らを称しているが病院に出かけることはないらしい。

 その皆既日食というものをはじめて見る機会をもった。皆既になった瞬間、あたりは夕暮れのように暗くなり、急激に下がった気温とともに、何かとんでもないことが起こるのでは、という感じにさせてくれる。そして月によって暗く覆われた太陽の周囲に、明るく広がるコロナの輝きが目に飛び込んできた。その形は太陽活動と密接に関連しており、皆既日食のたびに微妙に異なるらしい。

 このコロナというのは、太陽の光球から高度数千キロメータ上空に広がる大気層で、100〜200万度という猛烈な高温と膨張によって地球はもちろんのこと、そのはるか先、冥王星の彼方まで達している。この希薄な大気層は、しかしときにはとんでもない影響をわれわれに与えることがある。コロナホールと呼ばれる部分からは高温のプラズマを吹き出しているし、太陽フレアの発生に伴う磁気嵐は地球上に人間が構築したものすら、破壊に至らしめることがあるらしい。

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TXI Sounding Rocket Program Sounding RocketFlight,6/21/01
Solar & Stellar X-ray Group (http://hea-www.harvard.edu/SSXG/)

 太陽というとクリーンなエネルギーをふんだんに提供してくれる、生命の源とも言うべき、尊く、ありがたい天体である。地球上の多くの動植物は太陽の光なくして存在しえない。しかし、太陽はわれわれ地球上の生物のために存在するわけではない。もちろんわれわれを優しく見守っていてくれる、母のような天体であるということを自覚していてくれるというわけでもない。

 太陽は主成分の90%が水素からなり、その水素をヘリウムに変える核融合反応を続ける恒星である。宇宙空間に熱、X線、紫外線、その他の高エネルギー粒子といったものを、かって気ままに放出している。これはまさに安全設備などまったく無い、まさに自然の成り行きにまかせて核反応を続ける原子炉である。そこから放出される、猛烈なエネルギーを持った粒子は絶えず地球を襲っている。太陽は一面では何とも恐ろしい天体である。幸いにも地球表面を覆う大気層やオゾン層が天然の遮蔽装置となって、われわれをこれらの脅威から守ってくれている。人工衛星から地球を撮った写真に写っている、限りなく薄く、頼りなく見えるあの大気層である。この大気層を通して見ることで、太陽は尊く、優しく、母のような天体となるのである。

 われわれの目は可視光線という、波長が0.77μmから0.38μmという限られた範囲の電磁波にしか反応しない。これは波長がkmの単位で表される電波からオングストローム(10-10m)で表されるX線、ガンマ線まで、自然に存在する広範囲の電磁波の中の、ほんの一部にしか過ぎない。これは宇宙からやってくる光を、ごくごく細いスリットを通して、垣間見ているようなものかもしれない。従って可視光以外の波長で見た太陽の姿は、かなり違ったものになってくる。例えば太陽のx線写真をご覧になったことがあるだろうか。あの美しい太陽が、ホラー映画に登場する不気味な物体の様相を呈する。写真は2001年6月21日、まさにあのアフリカ、マダガスカルで皆既日食が見られた日、科学観測ロケットに搭載されたX線カメラが捉えた太陽の姿である。多くの人が皆既日食の美しさに酔ってているとき、月の陰にあった太陽は、実はこのような不気味な姿でもあったわけである。

 ここで太陽の悪口を言おうという訳ではもちろんない。地球表面上にたまたま形成された大気層のおかげで、自由奔放に活動を続ける天然の原子炉の危険が除かれ、そのの恩恵を甘受できているのだという現実を客観的に眺め、そのような環境を生み出している自然のメカニズムに、あらためて畏敬と感謝の念をささげたいというわけである。

 しかし、実はこの大気層をもってしても防ぐことができないものもある。ときどき襲ってくる天体である。地球に残されたクレーターの痕跡は、過去に何度か巨大な隕石が衝突したことを示している。大気という自然の防御システムが防ぐことができない災害を、人類は防ぐことができるのか、あるいは防ぐべきなのか、という議論は今後にとっておくとして、近い将来、地球に衝突してくるような危険な天体が、現実にどの程度あるのか、ということはとりあえず知っておく必要があるのではないだろうか。                        
(由紀 聡平)