マダガスカル皆既日蝕ツアー
松島 弘一(日本スペースガード協会)



6月17日(日)
 早朝にアンタナナリポを離陸した飛行機は40分ほどでムロンダバ空港に着く。空は青く晴れ上がり、気候的には冬に当たるとはいえ西海岸に位置するこのあたりには、南国の暑い太陽が照りつける。空港から二台のミニバンに分乗し、最初の観光地であるキリンディ自然保護区に向かう。マダガスカル独自の進化を遂げたキツネザルをはじめとする幾つかの動物を見物しようというわけである。ところがこの日は予想しない事態が起こった。動物を見物する前にわれわれが見物されるはめになったのである。ほこりだらけの乾ききっているように見えた道路に突然現れた水たまりの中で、一台のミニバンが立ち往生してしまった。やむを得ず搭乗者は全員降り、一台の車に便乗して目的地に向かう。実はさらにもっと悲惨な事態が、帰りに同じところで起こった。何とか水たまりを脱出して追いついてきた車に再度分乗しての帰路、同じ車がその水たまりで再度立ち往生したのである。しかも今度は水量がだいぶ増えていて、周囲は真っ暗、事態は朝よりもかなり深刻であった。タイヤは大方水没し、水面は車の床すれすれまであるらしい。ドアの隙間から進入する水が床をじわじわと濡らし始めた。車内には排気ガスのにおいも立ち込めてきた。しかし脱出するにしてもかなりの水深である。遂に一人づつ背おられて脱出することになった。災い転じて何とか、マダガスカル青年のたくましい背中に感動させてもらった次第である。もう一つ、その時見上げた南天の星空のすごさ。夜空がこれほどの迫力で迫ってくるのだということにあらためて驚かされた。もし水没事故がなかったら、この感動を味わうことが無かったわけである。車の水没事故がもたらしてくれたすばらしい贈り物であった。
 それはともかくとして、バオバブ街道も見応えがあった。真っ赤な夕焼け空を背景に浮かび上がるバオバブのシルエットに、時の経つのを忘れた。いつの間にか集まってきた子供たちが、バオバブに見とれるわれわれを見つめていた。

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「あ、いたいた」 キリンディ自然保護区で
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「ほら、あっちの景色がきれいなのよ」

6月18日(月)
 ムロンダバからアンタナナリポに帰る飛行機が二時間ほど遅れた。入り江に面したホテルのレストランで、これからの強行軍に備えて、海を見ながら一休みとなる。
 ところで昨年10月にここに来たとき出会って、写真を撮ってあげた人たち7、8人のプリントを持参した。そのうち、何と4人と再会できたのである。大好きなレゲーを目一杯の音で流しながら、二日間付き合ってくれたタクシードライバ、キリンディ保護区のガイド、小さな船をあやつり、たった一人の乗客のマングローブ林周遊をしてくれた可愛い少女、そして自作の木彫りを並べて売っていた彫物師である。皆、びっくりし、そしてとても喜んでくれた。一人を除いてまったく変わっていなかった。最後の彫物師は、店番をしていた逞しく、朗らかそうな奥さんと写真の中で笑っていた。この日、その店を訪ねたとき、何とそこは廃墟になっていた。近くに遊んでいた子供に写真を見せたら、数百メートル離れた彫物師の現在の住処に案内してくれた。それはマダガスカルといえども、あまりに小さく、みすぼらしいものであった。家の横で仕事をしている彼の姿がすぐ目に入った。気のせいかいささか憔悴しているように見えた。垣間見えた家の中には小さなベッドが一つだけぽつんと置かれていた。言葉が通じないので実際のところは何もわからなかったが、何らかの理由であの逞しくて朗らかな奥さんがいなくなったことは確かだった。本当は彼の店に皆を案内して、おみやげを探してもらうつもりであった。しかし、写真に目を落としている力無い顔つきにいたたまれず、日本語で「またいつか」などといって早々に別れた。

6月19日(火)
 前日飛行機が遅れたために行けなかったツィンバザザ動植物園に1時間ほど寄り、いよいよ日食観測地を目指して二台の車で出発。一台は貨物専用車である。昼食をアンチラベの中華料理店でとり、そこでマダガスカルサービスの浅川さんが合流する。アンチラベの街を少し見物した後、国道7号線にそって南下、夕刻、宿泊を予定していたアンブースチャのホテルに着く。新しくてきれいなホテルであるが、部屋数が足りず、二人部屋にマットを持ち込み三人づつの宿泊となる。しかし、明日から二日間はキャンプ生活となるため、今回のツアーで最後のホテル宿泊というわけである。