マダガスカル皆既日蝕ツアー
松島 弘一(日本スペースガード協会)





6月21日(木)
 皆既日食の当日、イサロ国立公園の仮設キャンプ場は雲一つ無い晴天であった。早朝に出かけたイオシ国立公園のトレッキングも、強い日差しの中であった。昼食後、キャンプ地に接する観測場所にそれぞれ三脚などを設置し、観測の準備が始められていた。アフリカのザンビア、ジンバブエ、それにマダガスカルの三カ所から、インターネットで日食の中継をするという、LIVE-ECLIPSE 2001計画の、マダガスカルを担当している和田さん、嵩本さんも、発電機を使った機器の作動や通信衛星との交信の準備を進めていた。

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仮説レストランでの食事(イサロ国立公園仮説キャンプ場)
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さあ、いよいよ日蝕観測の準備だ」

 やがて午後三時過ぎ、ゆっくりと太陽がかけ始めた。この第一接触を過ぎて約1時間、周囲の暗さも増し、いよいよ皆既日食の時が近づいたことが身をもって感じられる頃、何とその太陽を追いかけるように、大きな黒い雲のかたまりが太陽に接近してきたのである。上空はさわやかに晴れ上がっている。なぜ、太陽のところにだけ雲が来るのだ。
 時計の針が四時を15分ほど過ぎたとき、とうとう雲が太陽を捉えてしまった。それはかなり厚い雲で、太陽はまったくその姿を没してしまっている。周囲を見渡すと、だいぶ弱々しくなってしまった太陽の光を受けて、それでも明るく輝いている地帯が遠くに眺望できる。「あそこまで走ろうか」という、冗談とも本気ともつかない声が聞こえてくる。やがて腕時計の針は4時29分近くを指していた。残念だけれど、今回は絶望か。その時である。雲のかたまりの、いささか薄くなって割れていた部分に、その雲をかき分けるようにして、皆既になったばかりの黒い太陽が突然顔を出したのである。いや、正確には太陽を覆った月である。周囲から歓声が上がった。しかも雲の切れ間がみるみる広がっていく。やがてコロナが輝き出し、そして一瞬の見事なダイヤモンドリングで皆既が終わるまで、時の経つのを忘れさせてくれた。それは実に劇的な日食観望であった。最後まであきらめるな。まさに人生の貴重な教訓すら残してくれたのである。

 冒頭にも書いたように、皆既日食は、ある時、ある場所で、それぞれの人がそこに至るまでのさまざまな思いを天体現象に重ねる。マダガスカルに来てよかった、イサロ国立公園に来てよかった、そしてあの黒い雲のかたまりがやって来てよかった。何しろこんなにすばらしい天体ショウを演出してくれたのだからと、いささか感傷が過ぎて情緒不安定になるような皆既日食であった。