マダガスカル皆既日蝕ツアー
松島 弘一(日本スペースガード協会)



6月20日(水)
 アンブースチャを早朝5時に出発、日食観測予定地のラノヒラに向かう。このところ気になることが一つある。天候である。アンタナナリポからずっと曇りがちである。昨夜は弱い雨さえ降った。6月といえばマダガスカルは乾期。連日、抜けるような青空の連続を期待していた。ところがどうも天候の様子がおかしい。あの恐ろしいほどの迫力で迫ってくる南天の星空も、ムロンダバの夜以降見ることができない。やはり観測地は西海岸の方にすべきであったか。以下の文章は、観測地をラノヒラに設定した後、何となく気になっていたNASAレポートの一節である。
 「幹線道路に沿ったイオシ(Ihosy)の南西にあたる高地では、天気さえ良ければ非常に良い展望となる。ただ、曇天の恐れは西海岸より大きい。日食中心線がラノヒラ(Ranohira)とIhosyのほぼ中間、わずかに山頂の風下側を通る。というわけで、地形的な面からは、東側によく現れる曇り空を一掃してくれるのではないかという希望も持てる。ここは信頼してよい場所というわけにはいかないが、もし天気予報で希望が持てるなら、いやツキに恵まれるならば、日食帯の中で最もよい観測地になるであろう。」
(Total Solar Eclipse of 2001 June 21, NASA Eclipse Bulletin TP 1999-209484)
 この NASA Eclipse Bulletinは今回の皆既日食に関する詳細なの報告書で、上に引用したのはマダガスカルに関する記述の一部である。しかし、この記述がいかに正確なものであるかを、最後に、しみじみ実感することになる。

 今回の日食観測地の選定に当たってはアフリカ本土にするか、マダガスカルにするのかという第一段階の選択、次にマダガスカルにした場合、西海岸地域にするか中央部の高地にするか、という第二段階の選択があるはずであった。しかし、昨年夏、JSGAでも日食観測ツアーを企画しようかという相談を、フロンティアインターナショナルの佐山さんとはじめた時にはすでに遅く、(詳しくは「マダガスカル紀行」にも記述)マダガスカルの、中央高地、イサロ国立公園付近という選択肢だけが残っていた、というわけであった。日食の観測で第一に考えることは天候である。ムロンベ近傍の地域が天候の面からはより安心できる地域ではあったが。当時伝え聞くうわさでは、マダガスカルだけでも二万人近くが世界中から押し寄せる予定で、ムロンベ付近にこれから入り込む余地は到底ない、ということだった。
 しかし、昨年10月、乾季の終わりであったが、現地を訪れたとき、そのすばらしい展望と連日の好天にすっかり気をよくし、天候に関してはまったく心配はいらないのではないか、とすら思っていた。しかし、このところの天候はどうも納得できない。とはいっても、今から場所を変えるわけにはいかない。とにかく明日は晴天を祈るばかりである。

 昼食をとったイオシのホテルも、外国人観光客で大変な賑わいであった。イオシを出発してまもなく舗装された道路が終わり、周囲は地平線の彼方まで障害物を見つけることなど困難な荒野に入る。そこを横断するたった一本の道に沿って車は走る。赤い土の道が何とも印象的である。しかし道は平坦ではなく、なおかつ猛烈なほこりが遠慮無く車内に進入する。普段はめったに対向車に会うことはないというこの道路も、今日に限っては頻繁に車が交差する。そのたびに車は猛烈なほこりの雲に包まれることになる。
 この荒野の中で一度車を止めて外に出た。この辺は皆既日食の中心線が通る付近ではないかと思われる。車を出て散策を始めたわれわれを見物するために、何とぞくぞくと人が集まりはじめた。その数は数十人を超える。見渡す限り民家の一軒も見つけることはできない大平原である。それぞれが、われわれの想像を絶するはるかな道のりを歩いて、ここにやって来ているにちがいない。日本がどこにあるかなど、彼らに見当もつかないであろう。まして、日本が世界第二の経済大国であることなど、知るよしもない。立派なカメラをぶら下げて徘徊するわれわれは、彼らの目にはどう映っているのだろうか。

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われわれを見に来た人々。皆それぞれきれいな身なりをしていた。

 ラノヒラに近づくと日食観測のための仮説キャンプ場が幾つか目に入ってくる。われわれの泊まるキャンプ場はイサロ国立公園の中にあった。地面に直接張られたかわいらしいビニールテントにエアマット。ドアのない仮設トイレに仮設シャワー室。想像していたものに比べると至ってシンプルである。しかし、考えてみれば、これはまさにこの地に適した施設かもしれない。何しろマダガスカルの大地に直接触れることになるのだから。日食観測地はこのキャンプ場の前である。そこには真っ赤な夕焼け空と、すばらしいイサロ国立公園の眺望が広がっていた。