最近のニュースから-1

磯部 秀三(JSGA理事長)



小惑星2001PM9の発見とその地球接近

  8月11日に地球近傍小惑星(NEA)2001GM9が発見された。この小惑星は、直径が0.5km?1.2kmもあり、地球に衝突すると全地球的壊滅をもたらすものである。初期の3日間の観測を基に軌道計算がされ、2003年5月10日に地球に0.089天文単位(1,330万km)まで近づくと計算された。小惑星が地球に近づくと、地球からの最接近距離の違いによる重力効果の差が出てくる。そのため、2003年の最接近時の距離の誤差により、その後の地球への接近距離が大きく異なってくる。その誤差の範囲内で、100万分の1以下というわずかな確率ではあるが、2005年6月17日に地球に衝突する可能性が出てきた。

 MPC(小惑星センター)は、発見後すぐ8月12日にこれがNEAであり、その追跡観測の必要性を観測者に訴えた。これは、NEAを逃さないために、MPCがいつも行っていることである。14日になって、ピサ大学のウェッブページNEODys.に2005年に衝突の可能性が上記の文章に書き込まれた。これを見た他のウェッブページ管理者が次々とコピーして掲載していった。そして、17日までになされた観測を基に、NEODys.が次々と誤差範囲の小さい結果を掲載していった。

 観測が進むにつれて、2005年の衝突の可能性が2007年、・・・、と次々と消えていって、8月20日の観測データを加えることにより、初めて、少なくとも2080年までは衝突しないということが明らかになった。この間、一度も衝突確率は100万分の1以上にならなかったのでIAU(国際天文学連合)の作業部会の検討議題にはかけられなかった。

 ここで問題となることは、このような段階で衝突の可能性を個々のウェッブページに掲載することの是非であろう。これまで小惑星1997XF11,2000AN10,2000SG344といくつものケースで小惑星が地球に衝突するかもしれないと報告し、1週間前後で取り消してきた経験がある。そのような“狼少年”的なことを私たちのコミュニティは続けてよいわけはない。

 新NEAの発見があった時には、それを追跡観測することは重要である。そのためには、なるべく早く観測者に知らせる必要がある。通常の天文観測では、特定の専門家に伝えればよいのであるが、NEAの追跡観測の場合には不特定のアマチュア観測家にも協力してもらう必要がある。そのために、科学的な用語で衝突の確率を示して、追跡観測の重要性を示す必要があると主張されている。
しかし、そのような必要性はあるのであろうか。また、この科学的な用語を誤解されないであろうか。

 一般の人の“確率”という数学用語の理解は、残念ながら十分ではない。100万分の1の確率でも衝突すると理解してしまいがちである。宝くじを買う人の多くは、3億円が当たるとは思っていないが、買うのである。そして、何百万分の1の確率で当たることも確かである。100万分の1の衝突確率は、ほとんど当たらないことを意味しているが、衝突する事もあるのである。

 問題は、もう1週間の継続観測があれば、ほとんどの場合、衝突しないという答えが出るのである。4年も先の衝突に対して、あと1週間発表をなぜ遅らせられないかである。科学者の常として、1番最初にそのことを発表したいためだけではないのか。

 追跡観測が、是非、必要なNEAに対しては、2重丸やAの記号をつけて発表するだけで、衝突確率を言及する必要は特に発見直後の段階ではないはずである。今回の件を含めて、NEODys.の発表方法に、私は疑問を抱いている。これは、スペースガード・プロジェクトを進めているチームの信頼を低下させているだけであると思うのであるが、いかがであろうか。



イギリス政府の国立NEOセンター構想

  イギリス政府は、8月に国立NEOセンターの設立のための提案の募集を始めた。このことは、昨年に科学大臣が設立したタスクフォース(作業部会)の提案の下に実際に推進するための具体的な一歩である。そこでは、

 1,NEOの性質,数,その位置分布の情報を提供する.
 2.NEOが地球にどのように衝突するかを示す.
 3.NEOが地球に衝突した結果に起こる環境破壊.
 4.衝突した歴史的な事実を検証する.
 5.他の自然破壊と比べたNEO破壊の差を評価する.
 6.NEOを観測するための地上観測システムを説明する.
 7.NEOに接近する宇宙探査機の重要性を示す.

 このような内容をウェッブページで示したり、展示をして、より多くの人に理解してもらうようにする。さらに、マス・メディアへの情報提供ばかりでなく、学校のカリキュラムの中に取り入れることも考える。国際的な協力も重要であるので、相互に話し合う人材が必要となる。イギリス宇宙機構がこれらの作業を進める中心的な組織になると考えられている。

 イギリスは十分ではないとはいえ、政府レベルでNEO問題に取り組み始めている。日本は私たちの日本スペースガード協会が活発に活動しているが、残念ながら、政府レベルどころか宇宙機構(宇宙開発事業団、宇宙科学研究所)の支援はほとんどない状況である。(スペース・デブリ観測名目での委託を宇宙開発事業団から受けているが)米国のNASA並の支援が得られるのを最低限の努力目標としたいと思う。