マウイ紀行(その2)

-米国におけるスペースデブリ・小惑星の光学探索2-
梅原 広明 (通信総合研究所)



MSSS 見学 (3.67m望遠鏡について)

 マウイ宇宙監視基地の簡単なゲートを通ります。降車してすぐ, この基地で最も大規模な 口径3.67m 望遠鏡観測施設のエントランス・ロビーに案内されました。軍服を着た数人の方々が案内の準備をしています。しばらく待っている間、壁に展示されている写真を見ていました。マウイ宇宙監視局にある望遠鏡の説明やどのような観測が行なわれているか、そして、いくつかの撮影画像が掲げられていました。スペースシャトルや国際宇宙ステーションの鮮明な画像がありました。
 まず、全体説明です。AMOS は空軍研究所 (Air Force Research Laboratory)第15分隊に属し、ここ MSSS と、Remote Maui Experimental Site (RME, 遠隔マウイ実験基地)、Maui High Performance Computing Center (MHPCC, マウイ高性能計算センター)の3つの施設から構成されるそうです。このうち、RME・MHPCC はともに山麓のキヘイという街にあります。一方、ここハレアカラ山頂には、MSSS の他に、Ground-based Electro-Optical Deep Space Surveillance(GEODSS, 電子光学深宇宙地上監視) や、ハワイ大学など大学が運用する望遠鏡があり、全体でMaui Space Surveillance Complex (MSSC, マウイ宇宙監視複合体)と呼ばれています。恐らく MSSS の特徴を説明するときによく使う比喩なのでしょう。次の一文に2つの意味を込めているそうです。

MSSS has "Broad-Spectrum" Customer Capabitily.

 MSSS では、軍だけでなく様々な分野の人々が利用している、そして、MSSS にある光学観測機器では様々な波長の光データを取得している、という意味のようです。MSSS では、軍用飛行機や軍用ロケットの支援、打ち上げた宇宙機やデブリの監視などの軌道保全、それに、電子光学技術の研究開発 (とくに天文学、大気圏科学、レーザー工学)を行なっているそうです。そして、様々な望遠鏡で、可視光だけでなく赤外の波長までを受光したり、レーザー測距 (地上から宇宙の物体にレーザーを当て、反射光を測定することで物体までの距離や速度を精度よく求める方法) などを行なっています。ちなみに、MSSS は常時60人が働いているそうです。
 その後、10人くらい3班に分けられました。参加者で外国人は私と、中国人で補償光学を行なっているWenhan Jiang さんという方の2人だけでした。その人と一緒の班になりました。私の班は、階下に移動。スタッフの週間予定を書いたホワイトボードがあり、興味を抱きましたが止まることが許されませんでした。新人研修という単語が多くあったのが印象的でした。他の多くは略語で書かれていたので、意味不明。補償光学の実験室で説明を受けました。隣の部屋は入室禁止でしたが、3.67m望遠鏡直下に位置し、望遠鏡で集めた光が届けられて来ます。実験室は望遠鏡のピラーを中心に放射状に7部屋あります。大学・民間研究機関・軍など、様々なグループや機関に利用されているとのことです。


@3.67m望遠鏡(AEOS)、A1.6m望遠鏡、B1.2m望遠鏡ドーム、CRaven 小望遠鏡あるいはGEODSS
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3.67m望遠鏡(AEOS)
AMOSホームページに掲載された画像を使用
(http://ulua.mhpcc.af.mil/AMOS/gallery.html)

 次に、エレベーターが少し斜めになったようなリフトに乗り、いよいよ望遠鏡ドームへ。大きな円筒状のドームの中央に3.67m望遠鏡が据え付けられており、望遠鏡は水平方向を向けてありました。この望遠鏡は別名 Advanced Electro-Optical System (AEOS, 高等電子光学システム)と呼ばれていて、人工衛星を追跡するために設計されたものでは米国最大の望遠鏡システムです。望遠鏡は垂直方向に1秒間あたり4.75°、水平方向には1秒間あたり18°で回り、人工衛星や飛翔体を追尾することができるそうです。上下左右に望遠鏡が振られました。120トンもの巨体が音もなく滑らかに動きます。観測時は円筒形ドームの天井が左右に開き垂直方向の2段になっている側面が下がって、望遠鏡全体が外に露出されるそうです。ドームによる死角がなく、山頂に設置されていることから、俯角 5° (仰角 -5°) 相当から上空が観測領域になるそうです。望遠鏡に比べドームが非常に大きいのですが、将来はここに口径8mの望遠鏡を設置することを想定している、と説明されました。詳しくは次のホームページに基本性能が紹介されています。
  http://ulua.mhpcc.af.mil/AMOS/factsheet.html

 主鏡は背後につけられた 941 個のアクチュエーターによって微妙に曲げられ、大気ゆらぎの補正ができるようになっています。実際、国際宇宙ステーションやハッブル宇宙望遠鏡、テザー衛星 (数キロメートルのワイヤでつながれた2機の衛星) や、土星の衛星タイタンなどの鮮明な画像を撮影したそうです。これらの画像は、研究会の講演においても拝見し、PCプロジェクタの画像を持参したデジタルカメラで撮影したのですが、著作権の問題があるため、本紙での掲載は差し控えておきます。定量的には表現できませんが、  http://www.meridiancontrols.com/sattracking.html
で掲載されているスペースシャトルやミール宇宙ステーションよりも線の構造が判別できる程度に撮影できています。もっとも、さらに印象を強烈にするのは、同一物体を撮影した複数の画像データが MHPCC に送られ、blind deconvolution と称された計算処理がなされて、見えないくらい精細な構造を浮かびあがらせていました。宇宙ステーションの各モジュールの線がくっきり現れました。もっとも、実際は宇宙を飛ぶスペースシャトルの耐熱タイルが何枚剥がれているかを観察することができるそうですから、公開されない画像データはさらに細かいことが分かるのだと思います。今後は、このような精密画像処理技術は、宇宙における有人飛行、とくに船外活動の安全をまもるために監視する技術などに転用する予定であるということでした。また、この望遠鏡には、0.4?1.0μm, 8.0?14.0μm, 2.0?5.5μm, 17.0?19.0μm という幅広い波長の光を検出する放射計が組み込まれており、静止軌道上にある物体の材質を検知するなどして、その物体が何なのかの認識を行なうそうです。

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 見学はこの AEOS だけでしたが、ここ MSSS には他に口径1.6m望遠鏡, 1.2m望遠鏡, 0.8mレーザー光線発信受信機, 0.6m レーザー光線受信機, Raven 小型自動制御望遠鏡です。1.6m望遠鏡には, 補償光学以外の AEOS の機能を備えています。逆にいえば、3.67望遠鏡は最近でき、運用が始まったのが 2000 年に入ってからだそうです。すなわち、長らく1.6m望遠鏡を使っていたのを、より衛星追跡に適した高度な望遠鏡に発展させたのだと思います。もちろん、1.6m望遠鏡による観測結果も見劣りするものではありません。実際、研究会では 0.4?1.0μm の範囲で宇宙にただよう切り離し後のロケットに1.6m望遠鏡を向けてスペクトルをとり、アルミニウムと白い塗料とはスペクトル分布が明確に異なることを発表している人がいました。
 この他に、1.2m望遠鏡とRaven小型自動制御望遠鏡、それにMSSS のものではありませんが、GEODSS の紹介をしたいのですが、研究会にてきいた話ですので、後述します。ちなみに、これほど精密なことを行なっていながら、ハワイは火山列島であるため地震が問題にならないか質問したところ、地震はほとんどないそうです。

(次号につづきます。)