News and Information on Asteroidsand other MinorBodies
No.02-01(通算37号)
2002-01.20発行
特定非営利活動法人
日本スペースガード協会


今月のイメージ

「過去三十年間に、地質学者たちは、大陸が現在の場所に固定されているのではなく巨大なプレートにのって地球の表面を放浪すること、衝突が太陽系のいたるところに見られる現象であること、何千何万という隕石(いくつかは巨大隕石)が過去に地球に衝突したこと、そしてひとつの衝突がチチュルブクレーターをつくってK‐T大量絶滅を引き起こしたことなど、を順に受け入れるように求められてきた。証拠が強く示唆するように、もし化石証拠が周期的であるならば、地質学者たちはまた、ひとつではなく、いくつかの大量絶滅が地球外天体の衝突によって引き起こされた可能性を考慮するように求められていることになる。
 (ジェームズ・ローレンス・パウエル 白亜紀に夜が来る
 ‐恐竜の絶滅と現代地質学‐、寺嶋英志・瀬戸口烈司訳、青土社)

 1980年代初頭、KT境界層における高いイリジュウム濃度の発見をきっかけにして提唱された、恐竜をはじめとする白亜紀末の大絶滅は巨大隕石衝突が原因であるという仮説は、大変な関心を呼んだ。このような地球外の天体衝突説に対しては、いうまでもなく地質学や古生物学分野から猛烈な反論の火の手が上がり、激しい議論が10年にわたってつづいた。そのような論争の中で次々と発表される研究成果は、大半が衝突説を裏付けるものか、少なくとも衝突説と矛盾しないものが占めたようにみえる。この仮説をきっかけとして、賛成するか反対するかは別にして、隕石衝突や生物絶滅に関してこれまでにないさまざまな研究がなされるようになり、地質学や古生物学に飛躍的進歩を促したのである。現在、論争がかなりおさまって静かな状態にある。では多くの地質学者や古生物学者が衝突説を受け入れたのであろうか、というと必ずしもそうではないらしい。天体衝突のあったことまでは認めても、それが恐竜を含む生物の絶滅に直接つながったかどうかは、確かにそう簡単に説明できるような問題ではないようである。ただ、これまでのところアルバレスの説は十分試練に耐えており、少なくとも現在のところこれに対抗できるだけの説は他にない。上に引用したパウエルをはじめ、第一線で活躍する地学研究者の中に衝突説を積極的に支持する人が増えているのも事実である。
 
 そして次にもう一つ、史上最も大きな絶滅とされる、今から約2億5千万年前に起こった古生代末の大絶滅もまた天体衝突によるのではないか、という話しである。この時は陸上の生物はかなり生き延びたが海洋生物はほとんど全滅に近く、全生物の95%程度が絶滅したのではないかと言われている。古生代最後のペルム紀と中生代・三畳紀の間の地層(PT境界層)の調査に基づくこの仮説には、当然のことながら反論も非常に多い。しかし白亜紀末の絶滅論争と同様にこの仮説が引き金となって調査研究が飛躍的に進むようなことになれば、大変興味深いものになっていくであろうと期待される。

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古生代にも巨大隕石が衝突?
約2億5千万年前、古生代・ペルム紀末、直径50km程の隕石が海面に衝突、薄い海洋地殻を破ってマントルに達した結果、地球内部から大量の硫黄が噴出。それが90%の生物種を消した大絶滅の引き金か?
 1980年代のはじめに、K/T境界層のイリジウム異常の発見にもとづいて恐竜絶滅が小惑星衝突によって引き起こされた、という仮説を発表してまもなく、ルイス・アルバレスは、「歴史上の5大絶滅も同じメカニズムによって引き起こされたことが明らかになっていくであろう」という見解を示している。5回の大絶滅のうちの1回だけはその原因を天体衝突に譲ってもいい。しかし、全部を天体衝突に譲ることになるとしたら、これは大変な衝撃を我々の認識に与えることになる。人類を含む地上の生物の進化は基本的にはまったくの偶然に支配されてきたことになるわけである。

 さまざまな偶然が複雑に重なりあって起きている地球上の現象、それも6億年という時間スケールの中で、長い時間間隔をおいて起こった幾つかの現象を、簡単に一つの原因に帰してしまうなどという乱暴なことを地質学が受け入れるわけにはいかない。したがってこの仮説をまともなものにするためには、個々の絶滅現象を詳細に調べてその原因を突き止めていかなくてはならない。K/T境界の問題での経過も見れば、これがいかに大変な作業になるか想像にあまりある。しかも何億年という昔のことになると、地球のプレート運動によって証拠を内包していると思われる海底地層の多くは、地球内部へともぐり込んでしまっている。

 というわけで、この答えがいつ明確になるのか予想もつかないが、慌ててもしようがない。年の初めにあたって、遠い将来のことも考えておこう。これから何千万年、あるいは何億年か経って、地球上に再度知的生命が登場することがあったとき、彼らに、遠い過去に人類という地球規模で繁栄した生物種がいたことを明確に示す、何かモニュメントのようなものを残しておく必要があるのではないだろうか。何千万年の風雪にも、天変地異にも耐えられるようなものである。それは古代の解明に苦渋するわれわれにできる、未来へのせめてもの遺産である。そのモニュメントがどのようなものになるのかは、今のところ見当もつかないが。                 
(イメージ:立石/スコットランドのオークニ島  由紀 聡平)