美星スペースガードセンターからの報告

「『BATTeRS彗星』発見事情」
橋本 就安・浅見敦夫(美星スペースガードセンター)



 美星スペースガードセンター(BSGC)ではNEOとスペースデブリの捜索観測を毎晩のように5人の観測者が交替して、2人態勢で主に25cm望遠鏡を使って観測している。2001年11月16日までは宇宙開発事業団からいくつものスペースデブリの観測要請がなされていたが11月17日からは一段落したので小惑星だけの観測を行っていた。
 観測は最初に簡単な観測スケジュールを決め、リクエストがあればそれに組み込むのである。通常は、2人の観測者の内の1人が望遠鏡を操作して観測位置に向け撮影する。そして、もう1人が撮影された画像のチェックを行い、新天体を捜すのである。この場合、撮影者の手が空いていれば撮影中に画像のチェックに加わり、4つの眼で新天体を捜す事もある。2つの眼で見るより4つの眼で捜す方が見逃す確率は減るわけである。なお、他の作業(50cm望遠鏡の調整、テストなど)があった場合は1人の観測者が望遠鏡の操作・撮影・画像チェックの一連の作業を行うこともある。
 さて、11月21日は浅見、筆者(橋本)の担当となった。浅見氏の提案で、観測は西の空に向け小惑星サーベイを行うことにした。望遠鏡を向ける場所は、こと座のべガ付近という事だった。そこで望遠鏡の操作・撮影の担当者は望遠鏡の向ける座標を赤経18時10分、赤緯+19度00分として、各1枚の露出時間は200秒に設定して撮影を開始した。撮影は連続して6枚ずつ撮って行くのである。後は北へ2度づつずらせて撮影して行くことにした。撮影された画像はもう1人の観測者である浅見氏がチェックをして行く。今回はたまたま、アッシャー氏が加わって浅見氏の隣の席で画像チェックを手伝っていた。つまり、4つの眼で画像チェックが行われていたのである。



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発見時の各観測者で、右から浅見敦夫氏、デイビッド・アッシャー氏、橋本就安の順
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BATTeRS彗星の軌道。上は地球、木星、土星の軌道。(作成 デイビット・アッシャ−)

 『ところで、観測位置の高度角が低過ぎない?』
 『仰角20度で、これくらいならいいんじゃない』
という会話が交わされていた。そして、5エリア目の撮影を始めて間もない午後8時ごろであった。4エリア目をチェックしていた画像に、浅見氏が明るさ13.8等の新彗星を見つけたのである。アッシャー氏と筆者も確認を行った。ブリンクした画像に短い尾を引いた彗星状天体が移動して見えていた。
 もちろん見つけた時は新彗星かどうか分からないので、すぐにこの辺りに彗星がいるかどうかの位置予報を確認。確認には約30分かかったが、この位置には彗星は存在しないことがわかった。すぐに洲本市の中野氏に電話連絡しようとしたが、留守であった。そして、浅見氏がパソコンで暫定的に軌道計算してバイサラ軌道を出すと地心距離が太陽・地球間の距離と、同じくらいの約1.075天文単位であった。なお、彗星の形状(北から左回りで40度方向に尾があり、尾の長さは30秒角で、コマの直径は30秒角)を測定し、報告のメールを出したのは午後9時丁度だった。
 この後、チェコのKletとスロバキアのModraで観測され、新彗星と確認された。今回、一連の作業から見つかった彗星の名称は『バッターズ(BATTeRS)彗星』となった。また、その後の観測で、この彗星は周期がハレー彗星とよく似た約75年の周期彗星であることも分かった。
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撮影時刻:2001年12月10日09h35m10s〜38m30UT

注:発見した彗星の名称が「BATTeRS」となるにあたって、次のような経過があった。中野氏がその夜、彗星名をどのようにするかと問い合わせてきたので、日本スペースガード協会の取り決め通り”BATTeRS”として報告するようにお願いした。翌日、天文電報中央局のGreen氏からBATTeRSという名前が適当でないとの返事があった旨、中野氏が伝えてきた。そこで、磯部は美星スペースガードセンターの観測は個人でやっているのではなくチームでやっているので、BATTeRSにする旨を伝えた。するとGreen氏からBATTeRSという名前は天体名として適当でないと重ねて言ってきた。しかし現実には「LINEAR」(MIT、リンカーン研究所が中心になって進めているNEO探索計画の名称)という名前が許されているのである。LINEARがよくて、BATTeRSがいけない理由が明確に示されなければ納得できない、と強く主張した。その後、返事がなかったが、IAUC(国際天文連合サーキュラ)上で「BATTeRS彗星が登録された」と記されていた。 (磯部記)
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