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磯部 秀三(JSGA理事長)



SLOAN望遠鏡による小惑星衝突可能性の下方修正

 アメリカ・ニューメキシコ州のアパッチ・ポイント天文台に建設された口径2.5m望遠鏡によるSLOAN数値化データ掃天観測によって小惑星帯の10,000個の小惑星が検出され、このデータに基づいて、プリンストン大学のスティーブン・シュルツたちは直径1km以上の小惑星衝突の可能性がそれまで言われていたより3分の1以下と小さく、50万年に1回程度である、と発表した。これは、人類にとって幸いな発見であるとマスコミ等にも取り上げられた。しかし、残念ながら、小惑星衝突問題の専門家でない天体物理学者の著者はその論文の中で2つの大きな誤りを犯している。

 1つは、それまでの衝突確率の計算が6,500万年前の直径10km小惑星衝突のデータのみから推算されているという記述である。衝突確率は、地球上のクレータの存在頻度や月の頻度、さらには、観測された地球近傍小惑星の数から推算されており、最近のデータによる直径1km以上の小惑星衝突確率は80万年に1回から40万年に1回と評価されていることに気がついていないことである。論文中に“たった1個のサンプルで確率を評価するときの誤差は大きすぎる”と書いているのに驚かされる。

 2番目は、小惑星帯の直径1km以上の1万個の小惑星を検出したので、総数は70万個であると求めている。そして、小惑星帯の大きい小惑星と小さい小惑星の数の割合が地球衝突(近傍)小惑星でも同じとして、衝突確率を求めている。これは、太陽系における小惑星の形成及び衝突破片の形成の仕方を全く知らない者の議論である。太陽系形成時には、直径10km程度の微惑星が多数形成される。ほぼ丸い軌道の微惑星同士は合体してより大きくなるが、大きくなって惑星となったものからの力(摂動)が働いて軌道が楕円になったものが高速で衝突し、破片は四方八方に飛ぶ。直径10kmより小さい破片の小惑星は離心率の大きいものが多い。その結果、小惑星帯の割合より地球近傍小惑星の方が小さい小惑星の割合が大きくなるのである。

 SLOANチームのような優秀なチームがこのような基本的な誤りを犯した論文を書くのは残念なことであるし、また、それらの点をレフリーが見逃して論文が出版されてしまったことはより残念である。

                         
SLOAN数値掃天観測

 日米のチームが宇宙の中での銀河の3次元分布を作るために進めているプロジェクトである。美星スペースガードセンターの1m望遠鏡と同じように視野3度という広いものである。しかし、焦点面を平らにできないので、25(5x5)の2kx2kのCCDチップを曲面をした焦点上に並べてある。全面で焦点を合わせるために各CCDの前にいろいろな色フィルターの厚みを調整して置かれてある。観測時には、望遠鏡の駆動とCCDの電荷の移動速度を調節して星空を次々と掃いている。しかも次々とCCDに異なった色フィルターを付けてあるので、星や銀河の色を測ることができる。これにより、約1億個の銀河・星・クエーサーが観測され、5つの波長帯の強度比から銀河の性質を明らかにし、それらの中から100万個の銀河とクエーサーの分光観測をして距離を決め、3次元分布を求めるのである。

 広い視野をカバーし、23等級もの暗い星を写せるので、そこには小惑星も写り、それらが記録される。それが小惑星帯の1km以上の小惑星の総数評価に使われたのである。

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Sloan Digital Surveyを行っているSDSS2.5m望遠鏡Image credit:Fermilab Visual Media Services(http://www.sdss.org/)

青銅器時代を終焉させた小惑星衝突?

 紀元前2300年頃、中東に栄えていた青銅器文明の時代が一挙に終焉した。最近、イラクを調査した南アフリカのウットウォーターズランド大学の研究者が直径3.4kmにも達するクレータ状の地形(東経47°44'.4,北緯31°58'.2)を発見した。このアル・アマラと呼ばれる地形が衝突クレータであれば、人類史上の大事件をよく説明できるのである。

小惑星センターの危機

 天体観測をして、その観測画像に小惑星が写っているとそのデータは小惑星センターに送られる。小惑星センターでは、そのデータが過去のデータの中から同じ小惑星のものがないかを探し、同じ小惑星のものなら、その小惑星に新しい観測データが1つ加えられる。もし、それまでに見つかっていないものであれば、新しい小惑星として加えられる。このような作業の中で、軌道が異常なもの、特に地球に近づく地球近傍小惑星(NEA)があれば拾い出し、新発見や必要なものに対しては、次の観測を早急にするように呼びかける。

 こう書くと、いかにも単純な作業のように思えるが、観測者の報告の誤りや誤差が大きかったりして、機械的にコンピュータでのみ行えるという作業ではなくなり、かなり人手が必要となってくる。NEA問題の重要性が言われ始めてから、小惑星の観測数は飛躍的に増えてきた。スペースウォッチ望遠鏡が完成した1990年、LONEOS,NEATチームの観測開始、そして1997年のLINEARチームの観測開始は毎年100万個をはるかに越えるデータを生み出している。より早く危険な小惑星を見つけ切るには、この数をもっと増やさなければならない。美星スペースガードセンターの1m望遠鏡がフルに観測し始めれば、その数はもっと多くなる。

 小惑星センターには、所長ブライアン・マースデンを含めて3人のスタッフしかいない。しかも、マースデンはスミソニアン天文台の職員であるが、他の2人は他の機関からの研究費を集めて給料が支払われている。収入の道がないので人手が増やせなく、3人の日々の仕事量は増え続けており、週60時間70時間もの勤務をするようになってしまった。

 私たちはNEAの地球衝突から人類を守るために、まず危険な小惑星を全て見つけて、軌道を決めなければならないと言っている。そして、新しい望遠鏡の建設を主張している。しかし、実際には、作業はそれだけではない。小惑星センターのスタッフが動けない事態になったらどうすればよいのか。その日はそう遠くない。観測データを整理して、世界のNEA観測者軌道計算者に迅速にデータを配信するためのシステム作りが急がれる。
<つづく⇒>