月面のしし座流星雨



 少しブランデーをたらした熱いコーヒーカップを持って、自宅のベランダから流星を堪能した、などという恵まれた方もおられると思います。いや、熱燗ですって、それはなお結構。体が温まる上に、流星の数が三倍に見えます。
 ところで、地球上で、といっても場所は限られてはいますが、素晴らしい流星ショウを堪能しているとき、月面ではどうなっていたのでしょうか。もちろん無数の流星体なるものは降り注いでいたことでしょう。しかし、残念ながら大気層なるものがありません。たとえ小さな粒子といえども、猛烈な速度で月面に衝突して爆発が起こり、目の眩むようような閃光があちこちで走ります。溶けた岩が飛び散り、焼けただれたクレーターがジュウジュウ音をたてていそうです。(音は聞こえないかもしれませんが。)というわけで、月面の流晴雨も地球上から望遠鏡で見るということになります。といっても見えるのは極めて明るい場合、すなわち大きな流星体が衝突したときですが。今回も4等星程度の明るい閃光が見られたそうです。2年前の1999年のしし座流晴雨のときには、6回の閃光が観測され、最も明るいときは3等の明るさに達しました。
 このような明るい光を発生させる流星体の大きさとして、数百kgという推定がなされて話題になりました。しし座デブリストリームの中に、そんな大きなものが混じっているのだろうか、というわけです。
 この問題を解明するために、アリゾナ大学月惑星研究所のJay Meloshが中心になり、核爆発のコンピュータシミュレーションの専門家等も加わって解析を行いました。その結果、月面での衝突速度は72km/秒に達し、地球から閃光が観測されたインパクタの質量は1〜10kg程度ということになりました。この程度の大きさなら、地球上でも明るい火球として観測されることがあります。(Science@NASA)
 もし10kgの流星体が月面に衝突すると、衝突点から半径2、3mのところは蒸発し、溶解した岩の雲がクレータから立ち上ります。最初、雲は不透明で、温度も50,000Kから100,000Kに達して非常に熱いが、温度は急速に下がります。最初の爆風からミリセカンドのオーダーで、雲は直径が2,3mに拡がり、温度も13,000Kまで冷えます。それがクリティカルな瞬間で、蒸気が透明になり、すべてのフォトンが一斉に飛び出します。それが閃光として地球からも見えるというわけでです。それを100m程度離れて見ていたら、一瞬何も見えなくなるような明るさになるという話です。
 いやはや、何とも凄まじくも、迫力のあるしし座流晴雨のようです。これでは熱燗で流星観賞というわけにはいきません。そのうち脳天に微粒子が激突し、目から流星を出すことになるでしょう。       
(松 島)