アリヴェデルチ・セレス (セレスでまた会おう)後 編-2



小惑星探査計画

 この学会での議論をまとめると、これからの小惑星の研究に非常に重要となると思われる要素が浮かび上がってきた。
 1つは、「小惑星の物性」である。もちろん、これまでも小惑星の物性については様々なことがいわれてきた。例えばスペクトルにより、表層物質の細かな分類がなされてきている。また、それらを通して、小惑星がどのような物質でできているのか、いわゆる太陽系の始源物質としての立場からも多くの研究が行われてきた。
 しかし、これまでは物質としての議論は盛んだったものの、小惑星自体がどのような構造をしていて、どのような物質が内部に存在しているか、その点についての議論はあまり進んでいるとはいえなかった。
 しかし、これからはいよいよ、小惑星もその内部などについての議論が盛んになってくるだろう。特に、内部にどのような物質が存在しているかを調べることにより、小惑星の成り立ちなどに新たな知見が得られると共に、小惑星の物理的性質などが、これまでよりもよりはっきりと解明できると思われる。それは新たな小惑星の分類方法などにもつながっていくかもしれないし、ひいてはそれが新たな知見をもたらすかもしれない。

 こういったことを可能にしたのは、なんといっても90年代から特に精力的に進められてきている小惑星の探査である。これがこの学会での2つ目の大きな要素である。
 この学会でも、これまでの探査の結果、そしてこれからの探査計画に関係した発表が多数行われた。そして、この分野ではやはり、MUSES-C計画を持っている日本の活躍が目立つ。もちろん、日本からの学会発表も行われた。
 外国の研究者と話をしていると、「お前(寺薗)はMUSES-Cで仕事をしているのか?」と何度も質問された。それだけ、海外の人たちのMUSES-Cへの期待が感じられるチャンスでもあった。もっとも、私自身はほとんどMUSES-C関係の仕事をしていないので、その意味ではかなり珍しい日本人に分類されるかもしれない。
 それはともかく、MUSES-Cにおけるサンプルリターン計画は、その野心的な内容から多くの外国の研究者の注目を浴びている。日本ではどちらかというと「地味」な扱いのMUSES-Cであるが、外国からは熱い視線を浴びているのである。

 一方では、やはりニア・シューメーカー探査機の成果報告に大きな注目が集まっていた。3月に開かれた月・惑星科学会議(LPSC)でも成果の発表はあったが、これはどちらかというと速報であって、まだあまり解析が進んでいるようには見受けられなかった。もちろん、この6月の時点でも速報であることにはあまり変わりはないのだが、3月の時点からすると、いろいろな考察がなされていたり、新しい事実が加わっているなど、新しい内容が多くなっていた。
 例えば、Cornell大学のClark氏らのグループでは、ニア・シューメーカー探査機が着陸した、小惑星エロスの表面の宇宙風化(space weathering)の様子について調べた結果を発表している。岩石の表面が、宇宙線や太陽風などによって変質していくことを宇宙風化といい、スペクトルなどに影響を与えることから、その影響の仕方などについての研究が進められている。彼らは探査機の近赤外スペクトル画像を調べて、エロスの表面が確かに宇宙風化の影響を受けているということを確かめた。しかし、エロスを作っていると思われる物質に似た隕石のスペクトルと、エロスの表面で比較的新鮮な部分とではまだ、スペクトルに差があるという。どのような機構が働いてスペクトルの差ができているのかを今後、調べていくことになるであろう。
 また、ゴダード宇宙センターのTromka氏のグループは、X線、γ線スペクトロメータのデータから、エロス自体はそれほど加熱を受けておらず、始源的な物質が残っていると結論づけている。これは非常に興味深い結果であり、今後エロスのさらなる探査、あるいはサンプルリターンなどを進めていく上での強い動機づけにもなっていくであろう。
 このほかにも、重力や地形データの解析など、多角的な解析が進んでいることが伺えた。今後の解析によって、エロスという1つの小惑星の姿が白日の下に晒されれば、私たちの小惑星に対する認識もより深まるであろう。同時に、「小惑星」という大きなカテゴリーではなく、個々の「天体」の素顔を重視する方向に、研究の流れが変わっていくかもしれない。そのような大きな変化の潮流が、聞こえてきたような気がした。

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<写真10>小惑星「パレルモ」の名前贈呈式のひとコマ。

食事こそ重要

 さて、この学会での1週間、食べ物がおいしかったことは、疲れを忘れさせてくれる、もっとも重要な要素であった。イタリアはいうまでもなく、食の国である。シチリアはその中でも、豊富な海の幸を活かした料理が有名である。
 学会1日目の夜、シチリアで有名な魚料理「クスクス」のパーティが開かれた。クスクスは、スパイスなどで魚を煮込み、ご飯を添えた料理である。なんとなくパエリアなどを連想させる料理で、実際若干似ている。クスクスはもともとアフリカの料理で、それがシチリアに渡ってきたらしい。シチリアと「対岸」のアフリカ・チュニジアとは、近いところで185kmしか離れていない。意外なのだが、アフリカもまたシチリアの文化に微妙な影響を与えているのだ。
 ところが、このパーティがまた、強烈にイタリア的であった。集合時間は夜8時。イタリアの夕食時間としては、これはごく普通である。会場までは歩いて5分くらい。まぁ、250人もの人間が移動するので、イタリア的慣例により、5分では済まないであろうことは私も十分に覚悟していた。
 しかし、10分経っても20分経っても、何も始まらない。会場の席が明らかに埋まっているのに、何の動きもないのだ。ようやく1時間弱経った頃に、会場の上の方から拍手が響いてきた。よくわからないがこれがどうやら、パーティの始まりを告げる「号砲」だったようである。
 そして、この号砲から、実際に皿に盛られた状態のクスクスがどういうものであるかを、自分の目で確認するのにさらに40分ほど必要であった。なにしろ250人が一斉に、クスクスめがけて---しかも2ヶ所でしか供給されていないクスクス目指して---殺到したのである。結局、落ち着かない状態で、クスクスを味わうしかなかった。もちろんおいしかったのであるが…

 私が実際気に入ったのは、そのパーティが終わりかけた頃に、突然目の前に現れた「タコの塩ゆで」であった。
 この塩ゆで、実は学会に出席していた「ラーメン王」佐々木晶氏(東大助教授)が教えてくれたのである。確かに、会場の奥の方で、調理人がテーブルの上でタコを切りわけていたのをあとになって知ったのだが、これがとにかく、おいしい。薄く切ったタコの塩ゆでに、レモンを絞って食べる。それだけなのだが、これにシチリアのワインを合わせると、そのまま他のものを食べなくてもよくなってしまう。港の夜景をみながら、タコの塩ゆでが乗った皿を片手にワイングラスを傾ける。私にとって至高の、シチリアの夜であった。
<つづく⇒>