アリヴェデルチ・セレス (セレスでまた会おう)後 編-3



スペースガードについての議論

 スペースガードの議論は、最後のセッション、金曜日の午後から夕方にかけて行われてた。
 小惑星の研究にとってスペースガードは避けて通れない話題である。しかもイタリアは、国際スペースガード財団の本部がある土地柄である。かなり熱心な発表があるか…と思ったのだが、自分が予想していたほどにはなかったように思われる。口頭によるスペースガード関連の発表は合計4件であった。
 この中で興味深い発表としては、"Scientific Requirements for NEO Impact Mitigation"(日本語に訳せば、「地球近傍物体の衝突の影響を軽減化させるための科学的な面からの要求事項」とでもなるだろうか)と題された、M. Belton氏らのグループによる発表であった。ちなみにこのBeltonさん、長年アメリカの国立天文台に勤め、最近になって独立し、Belton Space Exploration Initiativesという、こういった探査についてのベンチャー・コンサルタント会社を興した方である。
 彼らの主張としては、まず小惑星自体の物性を知ることが、衝突問題でも重要であるということである。つまり、ぶつかってくる物体がどのようなものであるかについても、知っておくべきではないかということである。これは、どちらかというと軌道などに目が向きがちな小惑星の衝突問題では、斬新な視点といってよいであろう。
 また、こういった衝突問題では、例えば「どのように」衝突を回避するか、その技術についてはよく論じられるものの、そういったことを行う前提となる技術的(科学的)な要求事項についてはこれまであまり議論されていなかった。
 つまり、探査機を使って、こういった地球近傍小惑星の基礎的な性質(質量、大きさ、しかし、彼らが重要視しているのは、その内部構造や物質分布、強度、空隙度や組成など、実際の小惑星の成り立ちを定める要素である)を測ろうというのが彼らの主張である。そして、そのための様々な探査手法、例えばドリリングや地震波探査なども提案していた。

46KB
<写真11>Zappara氏のまとめの講演。
4枚目のOHPでは、これまでの小惑星研究におけるタイムステップを振り返り、
2010年にはセレスの上で会える、という議論(?)を展開していた。セレスの絵、見えますか?

 地震波探査、と来ると、私自身も月の地震を研究してきたのですぐぴんと来る。と同時に、やはり、小惑星を単なる「岩の固まり」としてでなく、あらかじめ内部構造という「素性」を明らかにしておくべきだという主張は、私自身も大賛成である。
 例えば、小惑星を破壊するというシミュレーションを行うにしても、小惑星は単なる岩の固まりではない。いくつかの小惑星について、内部構造や組成などを探査しておけば、そこから「平均的仮想小惑星」を作り出してシミュレーションにかけることもできるし、いずれかの小惑星で計算してもよい。
 いよいよ小惑星にも「個性の時代」である。これからは、個々の小惑星についての物性を調べるという、地道だがある意味、ぞくぞくするような発見が待ち構えている探査の時代がやってくるかもしれない。

 また、RAND研究所のG. Sommer氏による"A Policy Framework for the NEO Problem: Advocates, Institutions and Social Benefits"という発表は、小惑星衝突について、単なる学術的な問題としてだけではなく、社会的、政治的など、様々な側面からの研究が必要であるという主張であった。
 明確に「こうすべきである」というところまでの主張はなかったが、例えば、小惑星衝突に関して政治的にどのような政策を取っていくべきか、といった課題はこれまであまり研究されていないように思われる。何を研究すべきか、といった要素を抽出するだけでも非常に重要なことである。
 小惑星衝突問題が他の科学と違うところは、まさにスペースガードに代表されるように、それが自分たちの生活、政治、社会などにすぐ跳ね返ってくることである。そしてそれはさざ波のように他の部分にも影響を広げていく(彼の言葉を借りれば"meta-effect"ということになるだろうか)。これらを、様々な要素を入れてシミュレートし、来るべき小惑星衝突に備えるという研究は、社会学、政治学、心理学など、様々な人文・自然・社会科学を横断した壮大なテーマになる。しかし、これからは研究していかなければならないであろう。
<つづき⇒>