小惑星の地球接近の話題

吉川 真(宇宙科学研究所)



 今年になってから天体の地球衝突に関係する話が、すでに3回も話題になっています。まず、1月7日に小惑星 2001 YB5 が地球に約83万kmの距離(月までの距離の2倍強)まで接近しました。この小惑星は、その直径が300mから400mであり、このくらいの距離まで接近した小惑星としてはかなり大きかったことと、発見されたのが昨年末の12月26日であり、発見されてわずか2週間も経たないうちに地球に最接近したことによって、かなり注目されました。いくつかの報道では、もし地球に衝突したとしたら「フランス規模の国が吹き飛んだ」というような表現も使われていました。

 次に、3月半ばになって、2002 EM7 という小惑星が、3月8日に地球から46万キロ(月までの距離の1.2倍)のところを通過していた、ということが明らかになりました。この小惑星は大きさが100mくらいということですが、地球に最接近した後に発見されたものです。こちらの小惑星については、この小惑星の接近を事前に人類が知らなかったということが問題とされました。この小惑星の場合、太陽に近い方向から接近してきたこともあって、接近前に発見するのが難しかったのです。

 そして、このような小惑星接近の情報が飛び交う中、4月5日発行のアメリカのサイエンス誌において、小惑星 1950 DA が西暦2880年に地球に衝突する確率が0.3パーセントであるという論文が掲載されました。「またか」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、この論文は今までの似たような話とちょっと違います。それは、サイエンス誌という論文誌に掲載されたことと、その著者にはアメリカのジェット推進研究所(JPL)のそうそうたるメンバーが名前を連ねているということです。つまり、その内容はいい加減なものではないのです。

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小惑星 1950 DAのレーダーによる写真。
2001年3月4日にこの小惑星が約780万kmまで地球に接近したときにアレシボの電波望遠鏡によって撮影された。(JPL提供)

 この論文について簡単にご紹介しましょう。今から50年以上も前の1950年に発見されてその後ずっと行方不明だった小惑星1950 DAが、2000年の大晦日の日にローエル天文台で再発見されました。この小惑星は、2001年の3月に地球に780万kmほどまで接近したのですが、そのときにレーダーによる観測も行われ、その軌道が非常に正確に分かりました。この軌道データを使って、JPLの研究者が計算をしたところ、西暦2880年3月16日に地球にかなり接近する可能性があって、そのときには衝突する可能性すらわずかにある、という結果になったのです。その衝突確率が0.3パーセントというわけです。

 普通、このような地球に接近する天体の軌道運動はカオス的な性質を持ちます。ですから、長期にわたって正確に軌道を計算することが難しく、100年間程度しか精度を保った計算ができないこともあります。ところが、このケースでは900年近く先のことまで正確に計算しているわけで、最初は私も不思議に思いました。それで、元の論文を読んだり私自身でも計算をしてみましたが、その結果、この小惑星は黄道面から少し傾いた軌道にあることで、カオス的な性質が小さいことが分かりました。さらに論文によると、ある種の共鳴現象のために、軌道がより安定化されているということです。このような理由のために、900年近く先の天体の位置がかなり正確に予測されたのです。

 ただし、衝突のようなピンポイントの予測をする場合には、いろいろ細かいことを検討しなければなりません。軌道計算には当然、太陽や惑星、月などの天体の引力を考慮するわけですが、この論文では、さらに3つの大きな小惑星の引力や相対性理論も考慮した計算を行っています。これに加えて、銀河円盤から受ける潮汐力、太陽の形状がゆがんでいる効果、多くの小惑星による引力、太陽の光の圧力、そしてヤーコフスキー効果と呼ばれる力などもあります。さらには、太陽の質量が減少していく効果や、惑星の質量値の不確定さ、そして数値計算の誤差なども考慮しなければなりません。この論文では、これらの様々な力や効果についても検討しています。

 この論文によるとこれらについての詳細な検討の結果、2880年の衝突を予測するためには、ここに挙げた様々な効果が無視できないといことです。特に、ヤーコフスキー効果による影響が大きく、場合によると地球に接近する日付が60日くらい変わってしまうということです。その場合には、地球衝突を心配しなくてよいことになります。この聞き慣れない「ヤーコフスキー効果」ですが、これは、太陽から受け取った熱を小惑星が放出するときに生じる非常に微小な力のことです。力は微小ですが、長期間にわたると影響が積み重なって軌道に大きなずれを生じることになるのです。このヤーコフスキー効果を厳密に計算するためには、小惑星の自転の周期や軸の方向、形状、表面の物質の性質を知る必要があり、今すぐに正確な計算を行うことはできません。ということで、本当に2880年に衝突があるかどうかは、まだ分かりません。

 この2880年における小惑星の地球接近については、はるか先の話ですから今すぐどうこうすることはありませんが、今後もこの小惑星を注目していく必要はあります。また、最初に述べたように、地球に接近してくる小惑星が相次いで発見されていることは事実で、これからもスペースガードの観測を継続していくことが重要です。

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