ソビエトは“最初の一撃”を加えるための武器として、地球に接近する小惑星を 使ってくるかもしれない。80年代のはじめ、米国軍部の一部ではそのような憶測 もなされ、“イワンのハンマー”という名前まで付けて、その作戦に対する対策が 検討されたのだそうである。ところで地球に衝突する軌道をとる小惑星が見つかっ たらどうするか。現在考えられる最も可能性のある方法はその小惑星の近くで核爆 発を起こし、軌道を少しずらすことによって衝突を回避する、というものである。 我々はさらに幾ばくかの研究を加えてこの手法をより確実なものにすることが出来 たとしよう。そのとき我々は本来地球に接近はするが決して衝突する事のない小惑 星を、逆に確実に地球に衝突させるという技術も確立したことにもなるわけであ る。この技術は近い将来一つの国だけでも十分達成できるレベルのものである。そ の結果、核兵器や最近日本でも身近に経験をすることになってしまった化学兵器と ともに、もう一つやっかいなものを我々は抱え込むことになるかもしれないのであ る。

 これまでの宇宙探査によって我々は何を理解してきたのか、それを踏まえてこれ からどう進むべきなのか、といったモチーフのもとで書かれた本書の中で、著者は 一つの章を割いて上記の立場から衝突問題を議論している。太陽系は生成初期から 激しい天体の衝突のなかで形成されてきた。現在の地球が作られたのはもちろんの こと、その上で様々な生命が生まれ、また滅んでいった過程でも天体の衝突が大き く関与していたと推測させる証拠をいくつも手にしている。かつて地上を支配して いた恐竜などの絶滅によって、人類を含む哺乳類の繁栄する舞台が用意されたわけ である。したがって次の天体衝突によって人類は、新しく地球を支配することにな る生物に地球の舞台を譲るのが自然の摂理というべきかもしれない。しかし我々は 今あるような技術文明というものを発展させてきた。それを基にして過去におい て、予想される様々な破局に対して防御する術を工夫し、何とか成功してきたこと も確かである。これは将来も変わらない我々の生きる上の原則であろう。その予想 される破局の中に、今「小惑星や彗星の地球への衝突」という問題が姿を現してき たわけである。今後観測体制が整備されるにしたがって、地球に接近する小天体の 数は飛躍的に増え、この破局はより現実的なものとして実感されるようになるかも しれない。このために上述したような技術を強化して行くことは確かに一つの方法 ではある。しかし、危険な天体のデータが蓄積されるにしたがって、かつて米ソが 演じた底なしの軍拡競争のように、際限ない武器開発に走る恐れは十分である。少 しでも大きな天体に対応できるようにしようと考えるからである。しかももっと恐 いのはこの技術が別の目的に使われることである。

 しかし人類の生存を維持する、という観点にたてば道は開けてくる。我々の一部 が地球を離れ、他の天体に移住することである。もちろん月や火星に移住しても天 体の衝突という破局は免れるわけではない。しかし人類は生活圏が太陽系内に分散 することで一つの破局で絶滅することはなくなる。そこでこの著者の結論は「銀河 系の中に存在する知的生命にとって最後の選択は、宇宙飛行か絶滅か」ということ になる。すなわち居住する惑星上での国家的、民族的対立がもとで自ら蓄積した技 術によって自滅することがないようにすること、そして近くの天体に居住領域を広 げていくことだというわけである。

 いずれにしてもこの問題、もし起これば致命的な破局をもたらすが、起こるのは 近い将来か何千年後かわからないものである。世界的規模での危険天体のサーベイ が、集中的に行われると、将来の見通しがかなりはっきりしてくるのかも知れな い。しかしどうも人間は大変複雑かつ不可解な感情を持ち、思考をする生物である と筆者は日頃感じている。世界連邦のようなものの設立や、人類レベルでの一致し た決断といったことには大変懐疑的にならざるを得ない。しかし現在の国家、ある いはもっと低いレベルでの利害に基づいたものであれ、宇宙開発が月や火星の有人 基地といった方向に進むことになれば、結果的に最も適切な選択をしたということ になるかもしれない。