都会の喧騒をあとに町明かりの届かない所まで出かけて晴れて澄んだ夜空を見上 げますと、そこには降るような星空が広がっています。そのような星空では、見慣 れた星座も星々の間に埋もれてしまい形をたどることが難しくなってしまいます。 また、あたかも雲が浮かんでいるかのように、夜空を横切る天の川も見られます。 そして、ときどき流れ星も。まさに、大宇宙の神秘を目の当たりにして、誰しも自 分の存在が非常に小さなものと思えてくることでしょう。本当ならば、都会の夜空 にもこのような光景が広がっているのですが、‘現代文明’というものに隠されて しまって、私たちの目には映らないのです。

 さて、今回の講座は「目に見えない天の川」というタイトルにしましたが、これ は‘現代文明によって夜空から天の川が消えてしまったことを糾弾する’というも のではありません。この問題(「光害」問題といいます)はとても重要な問題で、 真剣に考えますと人類は今後どのように生きて行くべきかということにつながって いくような問題です。これにつきましてはまた別の機会に考えることにしまして、 ここでは「天の川」といっても小惑星が作る天の川についてご紹介しようと思いま す。  まず図1をご覧ください。これは、今年の七夕の日の午後9時の星空です。星座 の間に小さな点がたくさんプロットしてありますが、これがこの時点での小惑星の 位置です。東の空から西の空を結ぶ‘天の川’のように見えないでしょうか? こ の天の川は、天球上の太陽の通り道である「黄道」に沿っています。これは、小惑 星が地球の軌道面である黄道面を中心として分布しているためです。残念なこと に、この小惑星の天の川はどんなに暗い夜空のもとでも肉眼では見えません。それ は、1つ1つの小惑星が非常に暗いからです。これがここで言う「目に見えない天 の川」なのです。この図で本物の天の川は、北の空のカシオペア座の方からその南 のはくちょう座・わし座を通って南東方向にあるいて座、さそり座のしっぽ付近に 続いています。ちょうど小惑星の天の川と直角に交差するようになっています。

 図1を少し詳しく観察してみると、西の空(しし座付近)では小惑星が密に分布 しているのに、南の空(さそり座付近)から東の空にかけては少し分散しているこ とがわかります。この様子をもう少しよく知るために全天にわたる小惑星の分布図 を作ってみました。それが図2です。図2を見ると、確かに小惑星は天球上に帯状 に分布していることがわかりますが、その密度が一様でないこともわかります。こ れは、地球から見た小惑星帯までの距離が小惑星帯の場所によって異なるためで す。“あすてろいど”のNO.92-04でお話しましたように、小惑星帯は太陽を取り囲 む巨大なドーナツ状をしています。このドーナツの厚さは、地球に近いほどより厚 く見えますから、逆に小惑星の分布はまばらになるわけです。ちょうど七夕のころ には、地球は太陽から見るとさそり座の方向にあるので、さそり座付近の小惑星帯 が幅広く見えることになります。

 この小惑星の天の川には、本物の天の川にない特徴があります。それは、実際に 星が‘流れる’ということです。これは、小惑星や地球が太陽の回りを公転してい るためです。正確に言えば、本物の天の川も流れて(=星が移動して)います。ご 承知のように天の川は銀河系を作っている無数の恒星でできていますが、これらの 恒星は銀河系の中心のまわりを運動しているからです。しかし、その動きをはっき りと知るためには相当に長い時間をかけないといけません。(ちなみに、銀河系の 中心のまわりを太陽が一周するのに2.5億年かかると言われています。)ところが、 小惑星の天の川の場合には、小惑星や地球の公転周期(約1年から10年程度)でぐ るっと星が動きます。実際には、順行と逆行を繰り返しながら動きますが、この流 れる天の川が肉眼で見えないのは本当に残念です。できれば最近流行のコンピュー タ・グラフィックスを用いてこの流れを目に見える形で表現してみたいと考えてい ます。(いつになるかわかりませんが、完成したらご報告します。)

 さて、目には見えなくてもコンピュータを用いて図を描くことはできますので、 もう少し遊んでみることにしましょう。図2は地球から見た小惑星の分布ですが、 では他の天体から見たらどうなるでしょうか? 図3から図5に、木星・冥王星・ 小惑星セレスから見た場合の図を示します。木星は小惑星帯の外側にありますか ら、小惑星は太陽を中心としてその両側に分布するような形で見えます。さらに、 冥王星まで行くと小惑星帯からの距離が大きくなりますので、その分布も天球上で 非常に小さくなります。木星人や冥王星人にとっては、小惑星の観測は太陽にじゃ まされるのでかなり大変なことでしょう。図4の冥王星から見た図で、楕円状の分 布の両側に‘足’みたいなものがついていてあたかもUFOのように見えますが、 この‘足’はトロヤ群小惑星によるものです。これらに対して、小惑星帯の中にあ るセレスのような天体からみると、現在自分がいる付近では小惑星の帯が消えてし まう様子が図5にはっきり示されています。





 七夕の夜空では、織姫星(ベガ)と彦星(アルタイル)が天の川を渡って会うと いう1年に1度の恋が結ばれるわけですが、その夜空には実は図1のような小惑星 の天の川もあることを頭の片隅にでも覚えておいてください。すると、夜空がまた 格別のものに思えてくる(?)かも知れません。この小惑星の天の川を渡るような 恋物語はあるのでしょうか。

(通信総合研究所)