ニース天文台の12カ月 (その2)

    カレラン天文台での小惑星観測

                      吉川 真(ニース天文台)


 ニースから車で1時間ほどのところに、グラース(Grasse)という町がある。海からは少し離れた山の南斜面にある町だが、何といっても香水で有名な町である。現在パリで活躍している調香師(香水を調合する人)のほとんどはグラース出身だそうだ。街には、フラゴナール、モリナール、ガリマールといった香水の工場があり、街全体が花と香水に包まれたようなところである。

 さて、このグラースからさらに内陸(北)へ30分ほど車を走らせると、がらりと雰囲気の変わったところに着く。地中海の海岸とは別世界。プラトー・ドゥ・カレランと呼ばれる高原である。ここに、カレラン天文台がある。

 カレラン天文台は、コート・ダジュール天文台の3つの柱のうちの1つである。他の2つは、ニース天文台と、グラース天文台。ニース天文台やグラース天文台がどちらかというと理論的な研究の方が中心であるのに対して、カレラン天文台は、その名のとおり、観測施設が中心の天文台である。

 写真1

 筆者らがここを訪れたのは、4月半ばの天気がいい日だった。そのときは、空は青く澄んでいたが、風も強く寒かった。標高を聞くと、1,300メートルという。いくら南国のコート・ダジュールとは言っても、これは寒い。

 このカレラン天文台に、地球接近小惑星をねらう望遠鏡がある。それは、口径90センチメートルのシュミットカメラ。カメラといっても、見かけは望遠鏡そのものである。普通の望遠鏡との違いは、より広い視野について写真が撮れるということだ。日本の木曾にも同様な望遠鏡があり、様々な観測に使われている。

 観測室に入ると、数人のスタッフが作業をしていた。そのうちの1人のアラン・マウリー(Alain Maury)に話を聞いた。彼は、シュミットカメラに取り付けるCCDカメラの開発を行っている研究者である。彼の話によると、現在は2千×2千ピクセルのCCD素子によって30分角ほどの視野で小惑星の観測を行っているとのことである。観測は、スキャンしながら約30分毎に3回同じ場所を撮影するようなやり方であるという。得られた3枚の画像からは、まず移動していると思われる天体を自動的に取り出す。そして、その移動天体が本当に小惑星であるかどうかは、最終的には人間の目で判断しているとのことだった。データ量としては、1晩で1.5ギガバイトほどになるそうである。

 写真2

 ただし、現在のCCDカメラでは視野が狭いので、将来的には、9千×7千ないし9千×9千のCCDを導入したいとのことであった。前者の場合には、2度×1.5度の視野の写真が撮れることになる。この場合には1晩で取得されるデータ量も10倍以上になるというので、そのデータ処理の方法も問題になろう。

 カレラン天文台のシュミットカメラは、小惑星観測専用ではない。小惑星以外にはスペースデブリといった宇宙のゴミをモニターするということも1つの重要な役目となっている。ただし、現在、立ち上げ中のものであるため、まだ実質的な観測結果は出ていないようである。近いうちに、小惑星やスペースデブリについて、本格観測が始められるということだった。

 写真3

 さて、このカレラン天文台であるが、ここにはこのシュミットカメラの他にもいろいろな観測機器がある。その中でも、1つ非常に特徴的な望遠鏡があるので、小惑星とは関係ないがここで紹介しておきたい。

 それは、GI2Tと呼ばれる光干渉望遠鏡である。これは、2つの望遠鏡から入ってきた光を干渉させて、より分解能の高いデータを取得するという特殊な望遠鏡であるが、難しいことは省略してとにかくその形が面白い。一見すると、「とっくり」のような形をしている。さらに面白いことは、その望遠鏡の向きの変え方である。普通の望遠鏡のようにギアや歯車などは使わない。喩えて言えば、サーカスで熊が仰向けになり4本の足で大きなボールを転がしている様子でも思い浮かべて欲しい。まさに、そのようなやり方で望遠鏡の向きを変えるのである。実際は4本の足の代わりに、2つのリングが交互に動くことで向きを変える仕掛けになっている。

 さらに、この望遠鏡について仕事している人が入っている研究棟が面白い。外から見ると、あたかも月面にできた宇宙人の基地かのように見える。1部屋1部屋は球形を基本にしており、それが不規則に連なったようなものなのだ。あたかも巨大な泡の塊のようである。どうしてこのようなものを作るに至ったのか、詳細は聞き漏らしたが、日本では決して「許可」されることのない建物であろう。

さすが、フランス人の個性尊重の精神が貫かれている。

 このような個性からどのようなサイエンスが生まれるか、小惑星の観測活動と同様に見守っていきたい。

         (1997年5月15日:日差しが一段と強くなってきたニースより)

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写真1 カレラン天文台のとっくり型望遠鏡(光干渉望遠鏡)。あたかもとっくりがお皿にのっているかのよう。

写真2 月面基地? いえ、光干渉望遠鏡のための研究棟です。この後ろに二つのとっくり型望遠鏡が見えます。

写真3 とっくり型望遠鏡の内部

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         「たまごっち」仏上陸!? 

パリで発行されている日本語の週間新聞(フランスニュースダイジェスト、1997年4月25日)によると、ついに「たまごっち、仏上陸」ということ。5月中旬から全国発売で、値段(標準小売価格)は99フラン(約、2,300円)。ということで、フランスでもブームになるでしょうか?

(日本に逆輸入されたりして。。。)

 サロン・ド・プロバンスの街のようす


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