スペースウォッチII望遠鏡

                       磯部 秀三(国立天文台)


 地球近傍小惑星(NEO)の検出において、アメリカ・アリゾナ大学のスペースウォ

ッチ望遠鏡が大活躍であるのは御存知の通りである。これはキットピーク山に置かれたスティアート天文台の口径91センチメートルの古い望遠鏡を使ったものである。視野が0.5度と狭く、ポインティング精度(目的の方向に望遠鏡を向ける精度)が悪いのであまり効率の良い観測ができなかった。しかし、スキャンニング・タイプ(この言葉の説明は他の機会にする)のCCDカメラを開発し、望遠鏡を動かさないで次々と天球上を観測できるようにした。これによって毎年30−50個の新NEOを検出している。しかし、これでも十分でないので、次の望遠鏡が建設された。

 1997年6月7日にスペースウォッチ望遠鏡の完成式が行われた。私は当日午前中

の講義を終えて、夕方成田発の飛行機に乗り、当日の1時間前にツーソンに着いて、そこからレンタカーでキットピークに駆けつけた! 着いた時には既に式が始まっていて、2−3人のスピーチが終わったところであった。そして、今話している人が終わったら次は私にやれとトム・ゲーレルが命令したので、止むなくお祝いのことばを述べた。長旅で頭がぼんやりしていたので、何をしゃべったのかよく覚えていないが、終わったら大拍手であった。

写真1

 この望遠鏡は口径が1.8メートルもある。スペースウォッチ望遠鏡より口径が2倍もあるので、光量が4倍になり、より暗い小惑星が検出できる。しかし、最初から大きな口径を狙ったわけではなく、望遠鏡建設のための費用を寄付に頼っていて、それがなかなか集まらなかったので、節約する一方法として出てきたものである。アリゾナ大学は、ハーバード大学と共同で多重鏡望遠鏡(MMT)を建設したのは1981年の事である。これは1台の架台に6本の1.8メートル鏡を束にして、全体の光を1つの焦点に集める事によって口径4.5メートル鏡と同じ効果を得ようとするものであった。そして、夜空の背景光の明るいパロマー山天文台5メートル望遠鏡より効果的な観測を数々としてきた。しかし、6メートル単一鏡に交換することになり、1.8メートル鏡が6枚余ることになった。トム・ゲーレル達はこれをもらってきたのである。

 MMT用の鏡であるので、スペースウォッチはその制約があり、経緯儀式架台、焦点位置等はそのままにせざるを得ず、写真に見られるように焦点位置が、主鏡と第二鏡の間に来るという通常あまり採用されない形になっている。しかし、視野は1.5度になるように設計されている。これまでの9倍の空を一挙に見えるので、能率ははるかによくなる。望遠鏡は完成したが、まだ10センチメートルを超える巨大な受光器(CCD)は完成していない。当面は0.5度をカバーするCCDで観測が始められるが、よいCCDが近々完成するのでそのNEO検出能力は一挙に拡大するであろう。

写真2 写真3

 式には百数十名の人が参加した。外国からは私とフランスのアラン・モリー氏が参加し、アメリカはテッド・ボーウェル氏やアラン・ハリス氏など、スペースガード財団のメンバーも遠くから駆けつけていた。ハリウッドの映画監督のポール・アーモンド氏の姿もあった。小惑星衝突に関する次の映画を検討しているとのことである。大学関係者やツーソンの町関係者に加えて、インディアンの人が多数招待されていた。キット・ピーク山はインディアンの保護区域内にあり、特にその山頂は聖地となっている。そのため、新しい望遠鏡を建設する時には了承を得なければならない。式が終わると立食パーティがあり、その間にスペースウォッチ氈Eの2つの望遠鏡の見学会があり、あちらこちらでグループができ、ミニ天文講演会が自然発生的に始まっていた。

写真4

 世界で2台目のNEO専用望遠鏡として活躍が期待される。しかし、その運営資金は厳しいようで、2台の望遠鏡の観測者を十分な数だけ雇えないでいる。トム・ゲーレル氏は72歳を過ぎたが、まだ、新月の頃になると、1週間は若い研究者と共に観測せざるを得ない状況である。もっとも本人は観測を楽しみにしているようではあるが。国際スペースガード財団や日本スペースガード協会がもっと強力になって少しでもサポートできればと思う。そして、日本でもこれに続く望遠鏡をぜひ建設したいものである。       

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 写真1 : スペースウォッチのドーム前でスピーチする筆者。

 写真2 : スペースウォッチ望遠鏡。経緯儀式架台になっている。

 写真3 : スピーチを聞く人々

 写真4 : トム・ゲーレル氏。


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