美星スペースガード天文台からの報告

 いよいよスペースガード望遠鏡を設置する建物の建設がはじまりました。この望遠鏡建設に向けての足取りを、これまで次のように報告してきました。

 建設に向かうスペースガード望遠鏡      磯部 しゅう三(No.98-02、98年4月)
 スペース・デブリ/地球近傍小惑星観測施設  磯部 しゅう三(No.98-03、98年7月)
            に関する調査検討委員会はじまる                       
 NEO・スペースデブリ観測装置の発注    磯部 しゅう三(No.99-01、99年1月)

 やがて天文台が完成し、観測がはじまると、定期的にいろいろな報告が行われることになると思います。そこで「美星スペースガード天文台からの報告」というページを設けることにしました。これは日本スペースガード協会の歴史を記録していくことにもなると思います。


     美星スペース・ガード天文台建設開始

                  磯部 しゅう三(JSGA会長/国立天文台)

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本来なら前号で御紹介しなければいけなかったのですが、多忙さにかまけてパスしてしまいました。

昨年12月に私が書いた仕様書を基に各メーカーの提案を受ける会が開かれました。発注元である日本宇宙フォーラムの担当者と協力して、望遠鏡に4社、CCDカメラに2社、ドームに4社による発表と提案書を詳細に検討し、最終的には Torus Technologies 社、Pixel Vision 社、及び西村製作所に決定しました。別に競争入札により、岡山の地元の中村建設が建物の建設を受注しました。

総額7億2000万円の予算ですので、各社にかなりコストの切り詰めをしていただいたのですが、残念ながら全体の統括を発注する予算が無く、磯部が日本宇宙フォーラムにおける望遠鏡建設のためのプロジェクト・マネージャー(無給)に委嘱されました。なお、宇宙科学研究所の吉川真さんと航空宇宙研究所の中島さんが客員研究員に委嘱されています。

1月17日から24日まで、磯部, 吉川, 中野の3名がアメリカに行き、パサデナ・JPLのNEAT, ツーソンの Spacewatch, フラッグスタッフの LONEOS の各チームを1日毎に移動するという強行軍で訪れ、それらのチームが実際にどのように観測・整約を進めているかを学びました。

1月22日には、Torus Technologies (代理店として三菱商事), Pixel Vision(同、YO システム)の15名が参加して、仕様の確認, 変更, インターフェイス部分の調整などを丸1日かけて議論し、合意するレベルまで持ってきました。

        図1. 1月22日のアイオワシティーでの技術打ち合せ

その前の1月14日には、建物建設のための安全祈願祭が行われました。建物では望遠鏡のピアが岩石の地盤にまで達する必要があるので、コンクリート・パイルを10m近くも打ち込むことになり、大変な作業でした。しかし、その後は順調に建設が進み、5月17日段階では1階部分まで、7月中にはドームやスライディングルーフを載せる壁にまで達する予定です。これでいよいよ美星スペース・ガード天文台(仮称)が、その姿をはっきりと示すことになります。

    図2. 1月14日の美星スペース・ガード天文台の建設地における安全祈願祭

4月22日に磯部は Pixel Vision と Torus Technologies を訪れ、製作の進み具合を確認して来ました。幸いなことに、全てのスケジュールはかなり早めに進められていて、まだ確定ではないですが(7月下旬には確定しているはず)、50cm望遠鏡とその冷却 CCD カメラは8月には完成し、9月上旬には磯部, 吉川が Torus Technologies のあるアイオワシティーに行って、オレゴン州ポートランドから運ばれるカメラと接続して性能テストが行われる予定になっています。

また、1m望遠鏡とその冷却 CCD カメラの製作も、2000年3月頃までにはアイオワシティーで性能テストを行える可能性が出てきており、2000年の夏頃には美星スペース・ガード天文台において、スペーデブリと NEO の観測のスタートが期待できる状況です。

   図3. 5月17日の建物建築状況.クレーンの後ろにあるのが1m望遠鏡用タワー

このように書いてくると、美星スペース・ガード天文台の建設はかなり簡単に進むような印象を与えるかも知れません。しかし、実際には全体のシステムとしてかなり厳しい問題を解決していかなければなりません。それらを思いつくままに少し書き並べておきます。

1. 視野3度を実現                                 F/3 という明るい光学系で視野3度をカセグレン焦点で実現、明るい光学系では第2鏡がかなり大きく(約40cm)なります。また、補正レンズが CCD の窓, シャッター, フィルターから離して置かれるので、レンズ系が難しくなります。視野3度は実直径で162mmという大きなものになります。

2. 冷却モザイク CCD の平面性
 現在(将来も)162mmという広い範囲をカバーする CCD は単体ではありません。10個の CCD をモザイク状に並べてカバー します。各 CCD の表面が全体として平らでなければ星像がシャープになりません。また、望遠鏡の焦点面全体で星像が十分小さい必要があります。

3. ドーム内の冷却
 夜間外気温は昼間に温められたドーム内の温度よりかなり(10度-20度)低くなります。この場合、温まった空気が上昇して大気をかき混ぜ、星像の拡大が起こります。それを防ぐため、昼間はドーム内を冷却します。理想的には冷凍庫のようになれば良いのですが、ドーム等動く部分が多いので、密閉するのに いくつもの工夫が必要でした。

その他いろいろな点で新しい技術を導入しています。それでもこの天文台の建設が順調に進んでいるのは、参加している技術者の努力はもちろんのことではありますが、「すばる」をはじめ多くの天体物理学用望遠鏡と異なり、CCD カメラをカセグレン焦点に取り付けて一切変えない単能の望遠鏡としたためです。今後、衝突軌道にある小惑星を見つけた時は、その小惑星の組成, 構造のデータを得るために天体物理学用望遠鏡が必要となりますが、その場合も単能の望遠鏡にしてコストを下げる必要があります。

次号ではアイオワシティーでの性能テストの結果を報告できればと思っています。


 27号の目次/あすてろいどのHP