編集室から


 あけましておめでとうございます。世紀の節目に当たるということで、20世紀を振り返る試みがさまざまなかたちで行われています。この考える単位を100年にとるだけで、人間や社会の栄枯盛衰を、どこか高いところから見下ろしているような気がしてくるから不思議です。誰もが100年単位でものを考えるようになると、世の中はかなり変わってくるのではないでしょうか。おそらく20世紀での苦い経験を、21世紀でも繰り返すことはなくなるでしょう。この単位を100万年にとることができたらどうでしょうか。地球上におけるさまざまな生物の誕生や滅亡を、客観的に見ることができるようになるでしょう。そして、天体衝突という現象も、また天体衝突が地球や地上の生物に与えてきた影響も理解できるようになると思います。

 妙な書き出しになってしまいましたが、実は昨年の11月、ヒマラヤトレッキングの途中に、しし座流星群を見る機会がありました。夜空を見上げているうち、自然の雄大さに圧倒され、そんなことが実感としてわかったような気がしました。  
 それは11月18日、場所はアンナプルナベースキャンプ(BC)、海抜4130メートル。目が覚まして時計を見ると、すでに午前3時半。慌ててスリーピングバックから這い出すと、ダウンジャケットをはおり、懐中電灯を持ってロッジを飛び出しました。天気は快晴。誰も他には人の気配はありません。目がなれてくると眼前にそびえる山々の白い輪郭が、闇の中にはっきりと浮かび上がってきます。アンナプルナI峰(8091m)をはじめ、BCを取り囲んで眼前に迫ってくるマラヤの峰々に圧倒されます。時々、静寂を破って響いてくる、ゴー、ガラガラという、雪崩の音にいささか恐怖感さえ覚えます。そして、この山々も一千万年前に成長をはじめ、まだ成長を続けている生きた山なのだ、という意思表示のようにも聞こえました。
 空を見上げました。オリオン座と双子座の間を北から南に抜ける天の川がはっきり見えます。流星が流れました。1、2分に1個ぐらいの頻度で見えます。予想されたように今年はかなり多く発生しているのか、それともここは暗いものまで見えるせいでしょうか。時折、あかるい流星が山の峰の彼方に消えてゆきます。それはひときわ幻想的で、寒さを忘れて、1時間ほど空を見上げていました。
 しかし、この3時間ほど後に流星のピークを迎えようとしていたとは。それがあと3時間早く訪れて来てくれたら、世界の屋根、ヒマラヤ山群の限りなく透明な空を、無数の光跡が覆ったであろうにと、大変に残念でした。

 前置きが長くなりましたが、今回はトリノスケールについて特集を行いました。JSGAもいよいよ法人化が認められ、本格的なNEO観測が始まろうとしています。新しく発見されたNEOの、地球衝突確率がゼロでないとき、それをどのように公表していったらいいのか。これは最も大きな課題です。この特集をお読みいただくと、トリノスケールの内容、問題点や今後の課題等が一応お分かりいただけるかと思います。しかし、皆様がそれぞれの、自分でどうしたらよいかを考えたとき、このスケールの良い点、問題点もより鮮明に分かってくるのではと思います。
 「明日からあなたも宇宙科学の研究者」は、ネットワークの発達と情報公開の急速な進展の中で、意欲さえあれば、誰にでも研究参加の機会を持てるようになったことを主題にしました。研究情報を入手するだけでなく、国内、国外の電子メールを通した質疑応答にも簡単に参加できます。そこで重要なのは発信する情報、あるいは議論の内容、あるいは質であって、それを行う人の肩書き、経歴などではありません。公開されるNEO関連の情報もこれから益々増えていくと思います。「あすてろいど」はもちろん、JSGAのホームページや研究会などに皆様の積極的参加をお待ちしています。
 また今回は幾つものイラストで、Jonaさんに大変助けていただきました。紙面の都合で、残念ながら描いていただいたものの一部しか使えませんでした。最後になりましたが、2月20日の総会には多くの皆様の参加を期待いたします。
            (松 島、 写真はアンナプルナBC、但し合成写真ですが。)


  29号の目次/あすてろいどHP