特集 トリノ(Torino)スケール(1)

       衝突災害への対処:国際プロジェクト

                −IAU(国際天文連合)のプレスリリースから−           


 地球は太陽を回る軌道を移動しながら、常時いろいろな大きさの粒子を掃き集めている。そのうちの幾つかが大気中で燃焼するのを、流星として見ることができる。またメータサイズの天体が進入すると、大気中で大きな爆発が起きる。最近、滅多に起こらないが、しかし起これば壊滅的な影響が考えられる、キロメータサイズの小惑星や彗星による衝突への一般の関心が高まってきた。そのような衝突で死亡する危険が、航空機事故に匹敵するということもわかってきた。

 災害をもたらす可能性のある太陽系の天体は、長時間露出の天体観測によって、淡い光跡として記録することができれば、見つけることが可能である。したがって、天文学者は衝突災害に関して、特別の任務を持っていることになる。すなわち、危険な天体の発見とキャラクタリゼーション、そして、望むらくは、次の何世紀かの間には、大きな衝突が起きないという希望を確認することである。

 これら危険な天体の大部分は、いまだに発見されておらず、その軌道がわからない故に、いつ衝突してくるかしれない。当分は統計的な計算だけが頼りであが、それによれば、次の二百年以内に、キロメータサイズの天体が地球に衝突する危険は千分の一ということである。危険は小さいといえるが、万一起こった場合の災害の大きさを考えると、関心を持つに値するものである。実際、効果的な探索プログラムを実行に移した天文学者達は、そのような天体の新しい発見を次々と行っている。

 新しく発見されたそのような天体について、将来の地球への接近を調べようとすると、初期軌道決定の精度が不十分なために、衝突の危険を確実に決められないということが、往々にして起こる。したがって起こりうる災害についても推定の域をでない。それでも、すべての未知の危険天体のことも加味して、災害の重大さを考えれば、問題の小惑星や彗星は、注意深く監視すべき天体ということになる。願わくば、改良された軌道データが、早晩、衝突が起きないということを明確にしてくれることである。

 ところで、このような観測を行っているのは、世界的に見ても、まだ少数の天文学者グループである。 しかし、衝突災害は明らかに全世界的な関心事であり、観測も国際的に推進すべきである。またこのような観測は、国際的な観測協力と、参加している科学者の間で迅速な情報交換が行われてはじめて、大きな効果が発揮されるのである。IAUが、6月1〜4日にかけてイタリア、トリノで開催されたワークショップを共催した理由もそこにある。他にNASAおよびESAが共催に加わっている。

 そこで多くの関連する問題が討議された。例えば、それほど時間をかけずに、危険な天体のすべてを発見し、カタログを作る、迅速で効果的な探索をどのように実現するか、地上および宇宙における観測装置を用いて、それらの天体の重要な物理的特性の観測を行うために、どのような協力を行うか、関連する世界の観測施設での有効利用のために、データチャネルをいかにして高速、かつ広域なものにするか、そして特に重要な、必要な場合に、好ましからざる事態を示唆する予測を、一般および行政機関にどのように知らせるか、といった問題である。

 NASAとか米空軍といった米国の国家機関が、現在このような観測や計算等の仕事の大半を受け持ち、さらに拡大することになるかもしれないが、トリノ会議の参加者は、すべての政府に、“国立スペースガードセンター”の設立とその財政負担を、強く呼びかけていくことを決定した。

 この会議で得られた、最も明確で、すぐ実行に移せる結果は、いわゆる“トリノ衝突スケール”の採択であろう。これは、衝突予測に関する、専門家以外のコミュニティとの情報伝達ツールとして、MITのRichard Binzel教授によって作られたものである。地震強度に関するRichterスケールと類似するが、予測を0から10までの各クラスに分類する。何も起こらないという場合が0で、数字が高くなるほど、より大きな災害が予想されることを意味する。

 現在のところ、0より上のクラスに位置する危険な小惑星は知られていない。これはもちろん幸いであり、また望むところでもある。しかしながら、はじめは軌道計算精度の悪かった小惑星が、やがて高いカテゴリーへ移っていくことも、十分に考えられるのである。現実にそのようなものがあるというわけではないが、軌道をより正確に決めるための観測の必要性を言っているわけである。

 小惑星の発見が増大し、効果的な軌道計算スキームが実用になってきた現在、トリノスケールの有用性が益々大きくなることは確実であり、基準として頻繁に使われることになるであろう。

                          (あすてろいど編集室 訳)


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