専門家はより優れた小惑星の警報(システム)を要求
           EXPERTS DEMAND BETTER ASTEROID ALERT
           著者:レオナルド・デイビッド( Leonard David)
           配信元:CCNet(5月2日Space.comに掲載された論文が配信された)
           配信日:5月3日

                     日本語訳  祖父江 博臣/あすてろいど編集室


 

ワシントン − 目覚ましコールの話

 1994年2月1日、西太平洋の上空で、宇宙からやってきた巨大な火球がが炸裂した。そのエネルギーは40キロトン(TNT火薬)相当で、第二次世界大戦末期、広島に投下された原子爆弾の約2倍になる。爆発があまりに大きかったので、軍事衛星だけでなく、米軍の上層部も核装置の爆発と考えたようである。命令系統上部に厄介なコードネーム「 NUDENT 」−核爆発に関する軍の慣用語−が伝わった。情報部内でのこのコードネームは、シニアアドバイザーがクリントン大統領をその夜起こす、すなわち目覚ましコールをかけることを意味している。ただその直後の解析で、高高度爆発が核以外の原因で起きたことが確認された。
 いずれにしても、地球が巨大な宇宙の岩 − 厄介な、地球圏外からの侵略者 − の受け皿になっていることがわかった。今回の現象は、1908年、シベリアのツングースカ 上空で起こった隕石爆発(TNTで15メガトンに等しい爆発力に相当)の小型版というべきものであった。 その爆発は2,000平方キロの森林をなぎ倒した。 同じような目覚ましコールのチャンスが、地球に対していつも用意されているのである。 そして我々の惑星にはそれを証明する傷跡が残っている。

各時代の岩

 科学者によると、1年に30回から50回程、火球が地球の大気を突き抜けてやってくるらしい。 しかし、一般の人がこのような侵入者について、何か耳にすることはまったくない。1970年代後半から、軍事衛星はこのような現象を400回見つけている。しかし、これまでのところデータの大部分は機密のままである。火球について、10回のうち9回は、一般の人や科学者の目に触れることはない。
 勿論、6千5百万年前に恐竜を絶滅させたと想定されるメガ爆発がある。しかし、そのような規模の爆発は極めてまれな現象で、たいていの人々には実感が伴わない。米空軍管理指令本部次長、陸軍准将 ピート ・ウォーデンによると、「まだ1世紀にも満たない以前、局地的に損害を与えた、実際の衝撃の証拠を示すことができる。注目すべきは、早期警報衛星が地球大気中で頻繁に観測している、キロトン級爆発である。これらこそ一般の人や指導者が真剣に受け止めるべき脅威である。」ということになる。ウォーデン は、これはあくまで個人的な見解であることを強調した。 国防総省は宇宙からやってくる岩の脅威について、特に公式見解を持っていないようだ。

宇宙からの岩に対する監視

 しかしこれら天からの訪問者に対して、指令を出すことはなかなか面倒な作業に見える。ニューメキシコ 州アルバカーキ、 カートランド 空軍基地にあるサンディア国立研究所技師リチャード・スポールディングによると、「この種類のデータの扱いが組織的で、認知されたものになっているとは思えない。我々は大気中で非常に明るく、かつ、瞬時の現象を見ることが出来る衛星の能力を持っている。我々に見えるような大きなものは、関心を払う必要が十分にある。」ということである。スポールディングは、このような情報が迅速に発表され、科学界全体で共有されるべきであると主張ずる、基幹人員の中に増加している極秘衛星データに精通したエキスパートの1人である。 考えられることの一つは、 DSP(空軍防衛支援計画 )衛星を使って「応答能力」を構築することである。
 カリフォルニア州モフェット 連邦飛行場の、西部災害センターの会長である、リチャード・デイビズによれば、これら地球を周回する宇宙船は、爆発の起きた個所と高度に関する情報を、ほぼリアルタイムで発信できる、ということである。このセンターは、ハイテク技術による災害と危機管理の改善に焦点をあてた、非営利研究グループである。また、「監視レベルを強化するのに既存の能力を使う必要がある。今までのように、数カ月後に現象の報告をするのではなく、即刻、これをすることである。人口過密地域で、人々が傷つき、犠牲となる小規模なツングースカ 現象は起こりうる。被害者との連絡がとれるのに、数時間、あるいは数日間を要するかもしれない。」と語っている。
 デイビスによると、現在および将来の軍用宇宙船を使用する、このような空からの監視任務を、設立されたグローバル災害情報ネットワーク( GDIN )に組み込むことができる、という。今年の 4月27日、クリントン大統領によって設立されたGDIN は、複数の連邦機関の連合で、その任務は、自然および人的(原因)な大惨事から受ける生命と資産の損失を減らすために、情報技術を活用することである。
 この問題は海外でも同様注目されている。イギリス 、ソールズベリーに本拠地を置く、科学者と研究者の国際グループであるスペースガードUKが、宇宙からの岩の脅威に対して、行動を起こすことを呼びかけている。また、英国の政府特別委員会が、宇宙物体にる地球の脅威を調査しており、来月、委員会の提言を、英国の科学大臣に対して行うはずである。
 宇宙からの岩に係わる情報公開のプロセスは、確かに改善されている、とカリフォルニア州エルセガンド、エロスペース会社のコンサルタント、エドワード・タグリアフェリは語っている。彼は国防省の衛星から収集した赤外線データを解析しており、もし許可があれば、科学コミュニティにそのデータを公表するということである。いずれの行政機関がこのデータのリリースを指図するか、ということに関しては何も言っていないが。彼の言では、「当面は、それはケースバイケースでなされる」ということである。それは彼らがこのデータの価値に気付いていないからではなく、作業負荷が彼らにとって問題なのだ、ということである。

夜に起こる衝撃

 今年の初めに起こった1つの現象でも、やってくる隕石に関して、迅速でかつ正確なデータの必要性が示されたといえる。1月18日、カナダ北西部の遠隔地上空で、隕石が爆発した。4〜5キロトンの爆弾と同等の爆発力であった。タグリアフェリによると、「それは大きい物体だった。直径が6から9フィート(2〜3 メートル)の間と推定された。 こんなのは、せいぜい5年から10年に一回起こるかどうかというところだ」ということである。軍事衛星のセンサは、地球に突進してくるその天体を捉えていたという。
 この隕石は火球となって、ユーコン準州上空の大気をつき進んで、衝撃波がはるか遠くのブリティッシュ・コロンビアやアラスカの住民を驚かせた。火球が高度16マイル(25 Km)で爆発したとき、地上の暗闇が真昼に変った。 その爆発は非常に明るかったので、太陽電池で動いている街灯が、自動的に消灯した。隕石が消滅したとき、その街灯が一斉に点灯したが、ローカル送電網に負荷がかかり過ぎ、 それは、一転して電気的な開閉装置の故障の原因となった、ということである。
 自然現象で暗やみにとり残されるというのは、よくあることである。しかし善良な町民が、それをテロリストの攻撃であると思うことはない、といえるだろうか? タグリアフェリも、「確かに。このような現象は、模擬の核爆発を行ったのと同じなのだ。この種類の情報を適切に公表することは、大切である」、と 考えている。
 同様に、地球全体には、政治的な火薬庫がある。火球現象が導火線に火をつけるスパークとなることだってありうる。「パキスタンとインド、中国とロシア、北朝鮮と韓国という具合に拾い上げれば、そこにはお互いに不和な関係を持つ沢山の人々がいる。 その現象を、誰か対抗する側の人間によって起こされたと、皆が考えたとしたら、その内の1人が、人々を報復に奮い立たせることもできる。政府間で、自然現象について、信頼できる方法でコミュニケートすることができる機構が必要である。 このような現象一つが、ある場所を直撃することになると、重大な混乱や災害、あるいはそのいずれもが、本当に引き起こされることになる。それは、時間の問題である」、と タグリアフェリは語っている。
                 (挿絵 JONA)


  31号の目次/あすてろいどHP