美星スペースガードセンターからの報告


                                               ついに、小惑星の確定番号を取得
                     
                       吉川 真(宇宙科学研究所) 


 この「あすてろいど」でもすでにご報告していますように、岡山県美星町に建設されました「美星スペースガードセンター(BSGC)」では、今年の2月から試験観測を始めています。まずは、望遠鏡やCCDカメラといったハードウエアの調整で苦労が続いていますが、それでもすでにかなりの数の小惑星の観測をし、新しい小惑星も続々と発見しています。

 そして、ついにBSGCで発見しました小惑星に確定番号が付きました。確定番号が付いたときの中野主一氏からのメールが図1です。仮符号としては、BSGCが2000 NB6で取得していたのですが、この小惑星に確定番号として17286番が付いたわけです。

 小惑星に確定番号が付くということは、その小惑星の軌道が十分正確に決定できたということです。普通、小惑星の軌道を正確に決定するためには、数回の衝付近の位置での観測が必要です。つまり、確定番号が付くためには、小惑星が発見されてから数年間はかかることになります。ところが今回の場合、BSGCが観測を始めてからまだ半年も経っていないときに確定番号が付くことになりました。

 これは次のような事情のためです。まず、BSGCでこの小惑星を観測し、そしてその軌道を決定しました。その結果、過去に観測されたデータと結びつけることができました。図1の最初の方に、
  2000 NB6 = 1979 UM = 1997 YU19 = 1999 FH36
と記載されていますが、これは、これらの仮符号の小惑星がすべて同一のものだったということを示しています。つまり、これだけの期間にわたる観測があることになり、軌道を正確に決めることができたわけです。それで、確定番号が付きました。

 そうすると、BSGCはこの小惑星を最初に発見したわけではなく、厳密に言えば、「独立発見」ということになります。しかし、軌道が正確に決まったのはBSGCが行った観測のためなので、BSGCが確定番号を取得したということになるのです。ちなみに、確定番号を取得したということは、この小惑星に名前を提案する権利はBSGCにあることになります。

 おそらく、このような確定番号の取得は、これからも続々と続いていくことでしょう。実際、7月から8月にかけての、BSGCでの小惑星観測数は、千数百件となっています。このうち、独立発見を含めた新発見の数は100個以上にのぼり、その中で単独の新発見の個数は50個ほどになっています。この観測の数は、世界の天文台の中でも第8位となります。観測を始めてからあっという間に世界のベスト10に入ったわけです。その様子を、図2に示します。これも、中野主一氏からの情報です。第8位といっても、1位のLINEARには2桁足りないですし、2位のLONEOSには1桁少ないわけですから、トップまで行くにはまだまだ大変です。

 さて、このようにBSGCにおける観測がスタートしているわけですが、その記念すべき最初の新小惑星の発見は、2000年7月7日の未明でした。しかし、この小惑星は、すでに他で発見されていることが分かりました。真に新発見となったのは、次の日、7月8日の未明に発見された小惑星です。その発見のときの写真を図3に示します。仮符号としては、2000 NV3というものを取得しています(BSGCでの整理番号はA00005)。この記念すべき第1号の発見は、日付こそまたいでいますが、20世紀最後の七夕の晩でした。

 まだまだ産みの苦しみが続いているBSGCですが、このように小惑星の発見が次々と続いてきています。今のところメインベルトの小惑星ばかりですが、いずれ地球接近天体(NEO)の発見もできるときがくると思います。そのときが早く来ることを期待しています。
       (2000.9.17:ロサンゼルスの空港にて)

(図1)確定番号が決まったことを伝える中野主一氏のe-mail

Date: Fri, 15 Sep 2000 02:09:42 +0900
From: Syuichi Nakano
Subject: [batters:00544] [kansoku 74] The first numbering

おめでとうございます.美星での最初の番号登録小惑星です.

(17286)* 2000 NB6 = 1979 UM = 1997 YU19 = 1999 FH36
Discovered 2000 July 8 by the BATTeRS program at the Bisei Spaceguard Center
Id. S. Nakano (MPO 2575)

Epoch 2000 Sept. 13.0 TT = JDT 2451800.5      Nakano
M 357.19757      (2000.0)    P       Q
n 0.27567785  Peri. 77.45820 +0.90603100 +0.41074116
a 2.3381272  Node 258.21770 -0.41736263 +0.82726034
e 0.1401136  Incl. 5.97952   -0.07011602 +0.38331715
P 3.58  H 14.8  G 0.15  U 1
Residuals in seconds of arc
J79AV 801 (0.7- 3.2+) J993K 704 0.3+ 0.2- K007U 704 0.1- 0.8-
J966E 566 0.2+ 1.9- J993K 704 0.3- 0.8- K007U 704 0.2- 0.7-
J966E 566 0.7- 0.5- J993M 704 (0.3- 2.3-) K0082 704 0.2- 0.2-
J966E 566 0.0 0.4- J993M 704 0.3- 0.2+ K0082 704 0.0 0.0
J97BT 704 1.8- 0.8+ J993M 704 1.3- 2.1- K0082 704 0.5- 0.0
J97BT 704 (3.3- 0.3-) J993M 704 0.6- 1.5- K0082 704 0.0 0.2-
J97BT 704 1.9- 0.6- K006C 699 0.6+ 0.5+ K0082 704 0.3- 0.2-
J97BT 704 1.6- 0.5- K006C 699 0.3+ 0.3+ K008I 106 0.1+ 0.2+
J97BT 704 (2.5- 0.6-) K006C 699 0.6+ 0.4+ K008I 106 0.2+ 0.2+
J97CU 566 0.5+ 0.5- K006C 699 0.7+ 0.1+ K008I 106 0.3- 0.2+
J97CU 566 0.6+ 0.5- K0074 699 0.8+ 0.2+ K008V 704 0.3+ 0.1-
J97CU 566 0.6+ 0.6- K0074 699 0.2+ 0.2+ K008V 704 0.3+ 0.2+
J97CV 704 0.6+ 0.5- K0074 699 0.1+ 0.4+ K008V 704 0.2+ 0.0
J97CV 704 0.7+ 0.6- K0074 699 0.0 0.5+ K008V 704 0.3+ 0.0
J97CV 704 1.2+ 0.8- K0078 300 0.1- 0.9- K008V 704 0.3+ 0.2+
J97CV 704 1.2+ 1.0- K0078 300 0.3+ 0.9- K0093 704 0.0 0.2+
J9812 704 0.7+ 0.9- K0079 300 0.7- 1.2- K0093 704 0.4+ 0.0
J9812 704 0.2- 0.3- K0079 300 0.3+ 0.2- K0093 704 0.6+ 0.0
J9812 704 0.9+ 0.7- K007G 300 0.1+ 0.9- K0093 704 0.5- 0.4+
J9812 704 0.6+ 0.6- K007G 300 0.1+ 0.9- K0093 704 0.2- 0.4+
J993K 704 0.3+ 0.5- K007U 704 0.6- 0.4- K0097 691 0.1- 0.5-
J993K 704 0.5- 0.5+ K007U 704 0.2+ 0.2- K0097 691 0.2- 0.4-
J993K 704 0.3+ 0.0 K007U 704 0.1- 0.3- K0097 691 0.2+ 0.4-

(図2)主に200o年7月と8月に観測された小惑星数。観測の数(New Obs.)と取得した仮符号の数(New Dis.)を示す。第8位の300番のコードの天文台が、美星スペースガードセンターである。

Code  Observatory        New Obs.  New Dis.
704  Lincoln Lab. ETS, NM     229,527 7,586*
699  Lowell Obs. LONEOS     17,092   246*
691  Kitt Peak-Spacewatch    9,616 196*
608  Haleakala-AMOS        5,348  56*
566  Haleakala-NEAT/GEODSS    2,234  42*
106  Crni Vrh [Mikuz]        1,974  42*
809  European Southern Obs    1,485  38*
300+  Space Guard Center     1,301  50*
703  Catalina Sky Survey     1,004  65*
120  Visnjan            892  52*
557  Ondrejov           860  28
260  Siding Spring-DSS      785
261  Palomar Mountain-DSS    744
739  Sunflower Obs. [Rob.]     644  3*
910  Caussols-ODAS        642  9*
413  Siding Spring Obs.       632  23*
327# Peking Obs. Xinglong      620  3*
046  Klet Observatory       521  2*
428  Reedy Creek [Brough.]     500   47*
916  Oakley Observatory      490  3*
684  Prescott            474   76*
049  Uppsala-Kvistaberg      449  22*
151  Eschenberg Obs.        433
118#  Modra             432

               (2000年9月8日の中野主一氏のメールによる。)

(図3) BSGCにおける新発見第1号の小惑星の写真。時間を置いた2枚の写真を見比べると、矢印の先にある天体が移動していることが分かるが、これが小惑星2000 NV3である。(BSGC浦田武氏による)

※美星スペースガードセンター(BSGC)は、日本宇宙フォーラム(JSF)によって建設され、宇宙開発事業団からの経費で運用されています。


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