編集室から


 オリンピックは、いろいろなことを言われますが、始まってみると大変に人を引きつけるものです。しかも、それぞれの選手の背景やこれまでの経過のようなものが凝縮されていて、少し想像力を付加すると、いろいろなドラマが描けます。入賞しただけでも喜びを発散させる選手、一方では銀メダルでもうなだれる選手がいます。一方、特異な選手もいました。かつて世界を驚かした棒高跳びの「鳥人ブブカ」です。他の選手が予選を通過するために次々と飛躍を試みているのに、一向に飛ぼうとしません。やがてバーの高さが5m70cmになったところで腰を上げました。しかし、テレビにクローズアップされた顔は、静かというか、気力が失せたというか、飛ぼうという気迫がまったく見られませんでした。かってな想像をすれば、選手人生の最後の幕をどのように引こうかということだけを考えていたのではないでしょうか。かつての栄光が、オリンピックという競技の場に立ったからには全力を尽くさなくては、などという一般的な拘束を解き放ってしまったのです。今、目の前で飛んでいる選手の実力など、かつては問題にもしませんでした。しかし、現在はとても及ばなくなっています。だが、ここではそれらの選手と競わなくてはならないのです。自分がブブカだったらどうするだろう、としばし考えてしまいました。日頃、体力、気力の衰えというものに恐怖を抱いているものにとっては、身につまされるような場面でした。一方、彼がいるために今回のオリンピックに出場できなかった同国の若い選手にとって、この情景はどう映ったのでしょうか。それは晴れの舞台での挑戦の機会を奪った老害だったかもしれません。人間社会の持つしがらみの複雑さをあらためて感じさせてくれました。

 話しは変わりますが、JSGAでは主催する二回目のツアーとして、「マダガスカル皆既日食ツアー」の準備を進めています。これには大変期待する声が聞こえる一方で、「JSGAがなぜ日食ツアーなどをやるのか」という疑問をお持ちの方もおられることを知りました。これはJSGAの活動についてまだ十分にご理解いただいてないのではと感じ、少し触れさせていただきました。JSGAでは、1.NEOの観測、およびNEOや天体衝突などに関連した研究、および、2.これらの問題のについて多くの方に正確な認識を持って頂くための広報、という二つの活動を行っています。1に関しては、「美星スペースガードセンターからの報告」という欄でご紹介しているように、現在、4名(まもなく5名になる)の観測員が、小惑星や宇宙デブリの観測を、連日精力的に続け、新しい小惑星の発見も続いています。10月からは英国、アーマ天文台からデイビッド・アッシャー氏も加わり、また1mの望遠鏡も運用に入れば、その活動は大幅に増大すると期待しています。これらの観測データを国際的に広く、研究や教育の場で利用して頂くための公開の準備も進めています。会員の方々の積極的利用をお願いするしだいです。
 一方、2に関しては、講演会や本の出版、また「あすてろいど」の発行などを行っています。ただ、NEOや天体衝突問題を正しく理解するには、太陽系、あるいは天文現象に関する広い知識が必要だと思います。考えて見ますと、二十年程前には、天体衝突などという問題をまともに研究の対象にしよう、などということは想像もできませんでした。しかし、有名なK/T境界に関連する発見をきっかけに、、さまざまな分野からの発見や研究がすすみ、天体衝突が太陽系や地球の進化、そして地球上の生物進化にも大きな影響を持ったのではないかということがわかってきたのです。すなわち、太陽系に見られるさまざまなふるまいの中で、天体衝突というものが、明確に位置づけされるようになった、といえると思います。そのような環境の中で、JSGAのような組織も生まれることができたわけです。また、天体衝突問題は、大変長期的展望に立って考えていく問題です。そのためには、太陽系の現象をはじめ、天文学への広い関心を持って頂き、その中でNEOや天体衝突問題を考えて頂くような広報活動が大切ではないかと考えています。皆既日食ツアーもその一つとして計画したものです。特に日食は太陽系における重要で魅力的な現象であり、このような現象を生成する天体運動の不思議さを実感していただけるだけでも、今後衝突問題も含めた太陽系への関心をさらに高めるきっかけになるのでは、と期待しているしだいです。

 例によって前書きを書いているうちに、編集後記で書くべき主題をすっかり忘れてしまいました。しかし、32号も何とか出来上がったということは、原稿を期限までに書いて頂いた執筆者のお陰と感謝しています。
               (写真は「刈り入れ間近」/編集室の近くで  松 島)


  32号の目次/あすてろいどHP