小惑星衝突に対する警告時間とトリノスケール

                              磯部 秀三 (国立天文台)


               概 要

 地球に衝突する可能性がある小惑星が発見された時、その事実を一般の人々にどのように発表すればよいのであろうか。この問いに対して、マサチューセッツ工科大学(MIT)のリチャード・ビンツェルは1999年6月にイタリアのトリノで開かれた“衝突問題”国際会議で、その後トリノスケールと呼ばれるようになった指標を発表した。私は会議当初から強く反対していた。それは、この問題をまじめに考えている研究者や日本スペースガード協会のような組織が、いかにもうさんくさい“狼少年”と思われることを心配したためである。
 本小論では、トリノスケールに時間尺が入っていない欠点を明確にし、その尺度を考慮した上で、どのように取り扱わなければならないかを提案している。そして、その提案を2000年8月に開催された国際天文学連合(IAU)総会のNEO(地球近傍小天体)セッションで発表し、NEO研究のコミュニティによって、大方の了承を受けた。

             1.はじめに

 地球表面や月面、さらには最近の宇宙探査機によって得られた小惑星表面の様子から、これらの天体に小惑星や彗星が衝突してきたことは明らかである。そして、将来に向かっても衝突することは間違いなく、その衝突が何年先に起こるかということだけが問題なのである。衝突確率は衝突天体のサイズによって異なっており、当然小さいものほど頻繁に衝突する。アメリカ空軍の偵察衛星の観測によると約1.5カ月に1個の割合で直径10メートル規模の小惑星が衝突している。その爆発エネルギーは広島型原爆1個に相当するTNT火薬で20キロトンにもなるが、幸いにも地球には大気があるために、地上数十キロメートルもの上空で爆発して、隕石として破片が落ちてくる程度である。このような衝突はほとんど前もって探知されなくて、警告時間ゼロで衝突しているのが現実である。

 もし衝突までの警告時間を少しでも長くしたいのであれば、地球に衝突する可能性のある小惑星を前もって見つけて正しい軌道を決めておくのが唯一の方法である。地球も小惑星も太陽の周りを一定の周期で回っており、両者は通常1年から3年位の間に太陽−地球−小惑星の順に並ぶ合(外合)の位置にくる。その時が地球−小惑星間の距離が最も近く見つけやすい。1回の合の近傍で3回(できれば3夜)以上の観測があれば、小惑星の軌道が決定できる。しかし、これでは小惑星全軌道のごく一部の弧しか観測していないので、観測誤差からくる将来の軌道決定精度は非常に悪い。そのため、通常3回の合での観測がなされるまでその小惑星に正式の番号は与えられない。一度、十分に正しい軌道が決定されると、その小惑星の動きを100年あまり先まで正確に予想することができ、地球に衝突するかしないかも決定できるのである。

 1999年6月にビンツェルによってトリノスケールが発表されて以来、トリノスケールを支持するNASAを中心とする研究者とその他の研究者が激しくe-mail上で議論を交わしてきた。その論点は2つあり、トリノスケールの採用の過程が不透明であったことと、トリノスケールの持つ“狼少年”視されることの危険性であった。前者は手続き上の問題であったが、IAUのNEOワーキンググループ(WG)委員長のデーブ・モリソンに対する反感が大きかったと思われる。トリノスケールの議論のまとめが7月10日に参加者に送られ、その1週間後にはWG組織委員会、IAU総書記の承諾を得て、国際連合(UN)UNISPACE。会議でIAUの意見として発表してしまったのである。私も組織委員であったが、3週間に及ぶUNISPACE。の他の会議(ひかり害問題、天文教育それに宇宙デブリ)に最初から出席しなければならなかったので、反論の機会を失ってしまった。

 トリノスケールはマスコミにも発表され、それ以後も1999AN10等の衝突可能性のある小惑星の検出に対して騒がしく取り上げられ、“狼少年”とみなされる道を一歩一歩と進んできたことは事実である。e-mail上の議論は多くなされ、私もおびただしい数の英文mailを読んで、反論や提案をしたが、英語能力に劣るものとしては苦しい議論であった。しかも悪いことにe-mailの議論はエスカレートして、収まりがつかなくなるのが常で、今回もそうであった。
 そこで、大部分のNEO研究者が一堂に会するIAU総会に向けて、私のない知恵を絞った論文を書いて、提案することにした。それが本小論の基になっている。事前にその論文をe-mailで配ったところ、かなりの人が好意的に受けとめてくれたので、IAU総会ではかなり安心して発表できた。星間物質を研究してきた研究者が人類のためということだけでNEO問題に関わり、望遠鏡技術にはそれなりに自信はあるものの、天体力学の勉強は学生時代に履修しただけの者にとってはかなり勇気のいるものであったことはご理解いただけると思う。
 以下に私の主張と、今後、どのようにNEO問題を発展させたいのかの私見も記してみることにする。

   2.小惑星検出の努力と成果

 小惑星が最初に発見されたのは、1801年1月1日のことである。その小惑星は後にセレスという名前が付けられている。太陽系には、古くから5つの惑星(水、金、火、木、土)があることは知られていた。地球を含めた惑星の太陽からの距離の並びがボーデ・ティティウスの法則にほぼ従っていて、火星と木星の間にギャップがあると主張されていた。1781年にウィリアム・ハーシェルが土星より外に天王星を発見し、
その軌道の太陽からの距離がボーデ・ティティウスの法則に合っていたので、ますます火星と木星の間の天体に関心が高まった。多くの天文台が発見競争に関わったが、イタリアのシシリー島のパレルモ天文台のピアッチが偶然セレスを見つけたのである。セレスは6等級より少し明るくなることがあるので、この観測以前にも恒星と誤って記述されていたこともわかった。

 セレス、パラス、ジュノー、ベスタと次々と発見され、20世紀に入る頃には500個近くにもなっていた。その中の1つが1898年に発見された433番エロスである。エロスにはすでにNASAの探査機が行き、その凸凹のクレータだらけの様子を見せてくれている。このエロスが火星の軌道を横切って、地球に2,000万キロメートルにまで近づく、いわゆるアモール型小惑星の最初のものであった。そして、1935年には地球の軌道を横切って太陽に近づくために、天使の羽根をつけて太陽のそばまで行って死んでしまったギリシャ神話のイカルスの名前を付けられたアポロ型小惑星も見つかった。
 1970年からエレアノール・ヘリンとユージーン・シューメーカーが協力して、パロマー山天文台の50cmシュミット望遠鏡を使って小惑星の系統的な検出観測を始めたので、その数は急速に増えていった(図1)。1980年にノーベル賞受賞者のルイーズ・アルバレツとその子ワルターが小惑星衝突による恐竜絶滅説を出して以来、小惑星観測への注目が集まり、1989年にアリゾナ大学のトム・ゲーレルがスペースウォッチ望遠鏡での検出観測を開始し、MITのリンカーン研究所によるLINEARによる検出観測が1997年から始まり、NEAの検出は一層加速した(図2)。

図1 1990年までの小惑星の発見数の増加の様子(D. J. Asherによる)

図2 1980年以後の地球近傍小惑星の発見数の増加の様子。直径500m以上のものはすでに400個を越え、全てのものでは1,000個を越えた(A. Harrisによる)。

 NEAの地球衝突確率は月面のクレータの分布から求められている。一般的には、小惑星の直径の20倍くらいのクレータが形成される。これによると、種の大絶滅を起こし得る直径10キロメートルサイズのものは約1億年に1回位ある。直径10キロメートルの小惑星はかなり明るいので(1天文単位の距離で13等級位)、全てのものがすでに見つかっている。おそらく直径3−5キロメートル位までは全て見つかっていると言ってよい。そして、それらが近いうちに(100年以内に)地球に衝突することはない。直径1キロメートルサイズのものについては月面クレータからだけでは正確な衝突確率を示すことは難しく、数千個が未発見であると考えられていた。この場合、衝突確率は数十万年に1回ということになる。しかし、アメリカの5つのチーム(表1)による精力的な観測により、図3のように現在までに400個もの直径1キロメートル以上のNEAが見つけられており、その統計から総数は800−1,000個という説が有力になってきた。つまり、約100万年に1回の衝突確率になる。

表1 アメリカの5つのNEA観測チーム

1. Catalina Sky Survey
Steward天文台で行われれいるNEO探査プログラム。現在は北半球では0.7mのシュミット望遠鏡で探索を行い、Mt. Lemnの1.5mで追跡観測を行っている。一方、南半球では、Siding spring Uppsala シュミット(0.6m)で探索、同じ場所に設置された1.0m望遠鏡で追跡観測を行っている。

2. LINEAR (Linvoln Near-Earth Asteroid Research)
MITのLincoln研究所が米空軍と共同で、口径1mのGEODSSを使って行っているNEO探索。

3. LONEOS (Lowell Observatory Near-Earth Object Search)
アリゾナ州フラグスタッフにあるLowell天文台の、口径0.6mのシュミット望遠鏡を使った小惑星、彗星の探査。

4. NEAT (Near-Earth Asteroid Tracking)
マウイ島Haleakalaにある1.0mのGEODSSに、観測用に開発したCCDカメラ(NEAT)を装備して1995年12月から観測を開始した、NASA、ジェット推進研究所のNEO探索プログラム。現在、猛烈な勢いでNEOの検出を行っている。1999年にNEATは、同じ場所にあるMSSS1.2m望遠鏡に移設され、2000年2月から運用に入っている。

5. Spacewatch
キットピーク天文台にある0.9mの望遠鏡を用いて、1984年から探索を続けているNEO探索のパイオニア的存在で、これまでに数多くのNEO、カイパーベルト天体などを発見している。ある。現在、1.8mの望遠鏡も整備中。

図3 500m以上の地球近傍小惑星とその総数に対する割合(総数は発見されたものから評価されている。A. Harrisによる)

 直径20m−1kmのNEA(小さなNEAと呼ぶ)に関しては、まだ総数を言えるほどのデータは集まっていない。100mサイズのもので数百年に1個の衝突確率ではないかと言われている。1908年にツングースカに落ちたNEOは直径約80mであるから、約100年に1回毎、関東平野が全滅する規模の衝突があったと考えられる。その方向での古代史、中世史の研究をしている研究者もかなりいるようである。残念ながら、現在、NEA検出観測を進めている望遠鏡は、いずれも50cm−1mの口径のものなので、せいぜい19−21等級のものまでしか検出できない。従って、小さなNEA検出を完全に行うにははるかに長い時間が必要となる。

 図4は、1997年までに発見された小惑星全体とNEAの遠日点距離(Q)の分布である。細線の小惑星帯にある小惑星のQはほぼ一定の範囲に納まっているが、NEAは木星の距離まで広く広がっていることがわかる。図5はNEA(近日点距離1.3天文単位より小さいもの)の明るいもの(反射率によって異なるが、ほぼ500mサイズのもの)と全てのNEAの分布で両者にはほとんど分布の差はないようである。

図4 小惑星の遠日点距離に対する数分布。縦軸の左側は小惑星帯の小惑星の分布、右側は地球近傍小惑星の分布の数を示している(D. J. Asherによる。1997年までのデータによる)。

図5 地球近傍小惑星の遠日点距離の分布。太線は全体のもので、細線は絶対等級19等級(約500m以上)の地球近傍小惑星を示す(D. J. Asherによる。1997年までのデータによる)。

 これらの図を見てわかるように、一般にNEAの離心率は大きく、ケプラーの法則により遠日点近くに滞在する時間が長い。そのため短期間に全ての一定サイズ以上のNEAを検出し尽くそうとすると、口径の大きい望遠鏡で、遠日点近くにある比較的暗い状態のものを見つけなければならない。10年−20年以内の直径1km以上のNEAを全て見つけ尽くすためには、美星スペースガードセンターのような望遠鏡が10−20台必要ということになる。

 もう一つ重要な点は、NEAでも遠日点近くでの天球上での動きは、小惑星帯のものに似ていることである。これまで、10万個以上の小惑星が観測され、3回以上の観測がなく、または、3回以上の観測があっても軌道精度が悪いために見失われてしまった小惑星が5万個以上ある。つまり、小惑星帯の小惑星といえども発見検出に追跡観測を続けていなければ、目の粗い網で、小魚をすくおうとするようなもので、多少はすくい上げられるが、多くは逃してしまうのである。

               3.警告時間ゼロ

 一度、NEAを検出し、追跡観測を続ければ、軌道が精度よく決定でき、固有の番号が付けられる頃には100年や200年先の衝突予想をかなりの精度でできる(図6)。このような場合には、警告時間が長いケースになる。仮に30年後に衝突するとわかれば、10年間をかけて(当然予算もたっぷりかけて)衝突回避システムを開発すれば、小惑星の速度をたった2cm/sだけ変えてやれば、30年後の衝突を避けることができるのである。ここで一つだけ注意しておくと、ディープインパクトやアルマゲドン等の映画では、小惑星や彗星を単に破壊したり、押したりすればよいように描いているがそれでは地球を守れない。衝突してくる小惑星がどのような形をし、重心がどこにあり、どのような硬さのものか、気化しやすいのか、等々、いろいろな物理的、物質的なデータを十分に集めておかなければ、衝突回避の作業がかえって衝突を加速してしまいかねないのである。そのためには、ガリレオ探査機、日本のミューゼス−C探査機のような探査機を最初の10年間に次々と打ち上げて、前もって調べておかなければならない。

図6 地球近傍小惑星の将来の地球への接近の様子(吉川真による。1995年までのデータによる)。

 小惑星を目的の方向にある探査機で押す時には、近日点にいる時より遠日点の方が効果が大きい。しかし、遠日点に達するには時間もかかるし、ロケット燃料も多量にいる。衝突回避には、このような特質も十分に検討する必要がある。

 さて、もしまだ見つかっていない小惑星が突然地球に衝突することがあるのであろうか。警告時間ゼロである。ある日突然真昼の青空の中に、太陽の何万倍も明るい輝きが出現し、数秒後に地表に衝突して、グローバルな災害や、場合によっては人類絶滅となりうる。そのような現象の起こる可能性は、、直径10mの小惑星が1.5カ月に1回程度で地球大気に衝突していることが観測されていることで示されているが、それがより大きなNEAであれば地表まで達して、何メガトン、何万メガトンものエネルギーでの爆発を起こすのである。

 図7を見てみよう。これは小惑星1996XZ12が西暦2307年12月5日に地球に0.005天文単位(75万km=月の距離の2倍)まで近づくケースである。地球に接近する20日前から20日後までの両者の位置が示されており、地球から見てこの小惑星はほぼ太陽方向周辺に常にあって、接近することになる。衝突するケースでは警告時間ゼロである。私達の共同研究者のデビット・アッシャーは図8を描いて、地球に接近するNEAの20%以上が太陽方向の30度以内から向かってくることを示している。

図7 小惑星1996XZ12が2307年12月5日に地球に接近する様子。中心は太陽。接近の直前には小惑星は地球から見て太陽方向周辺に見えている(吉川真による)。

図8 地球近傍小惑星が地球に接近する時に見えている方向の分布。太線に囲まれた部分は、太陽方向から30度以内の方向である。黒丸の大きさは接近の程度を示している(D. J. Asherによる)。

 このような警告時間ゼロをなくすには、全てのNEAを見つけ尽くさなければならない。人工衛星や月面から太陽周辺を常に観測していれば、気づいてから数秒後に衝突というのは避けられるが、いずれにしても数十日程度の警告時間しかなく、かえって社会を混乱させてしまわないかと心配したくなるのは私だけであろうか。

 NASAは、直径1km以上のNEAを90%見つけることを目標としている。仮に総数1,000個とすると、すでに40%以上見つかっている。図9のように発見検出能率は見つかっていないNEAの数が減るにつれて悪くなっていくのは明らかである。それにしても、仮に90%見つけても、衝突確率は10分の1に、つまり、直径1km以上の人類壊滅をもたらすNEA衝突確率は1千万年に1回になるだけである。もちろん100万年1回よりは長いが人類壊滅の危機が残ることは同じである。百万年でも1千万年でも楽観的な人は楽観的であり、悲観的な人は悲観的であるのには変わりない。私は確率を10分1とするという目標は一種の欺瞞であると思うが、いかがであろうか。

図9 望遠鏡の限界等級による地球近傍小惑星の検出率を示す(A. Harrisによる)。

         4.短い警告時間と長い警告時間の違い

 先にも記したが、地球も小惑星も太陽の周りを回っており、その公転周期は約1−12年である。そのため1−3年に1回の合の状態になる。暗い小惑星は月の出ていない夜に検出されることが多い。そのため、通常3回の新月周辺の観測がなされ、軌道決定がなされる。しかし、観測には誤差が付き物である。現在の位置測定観測では、ほぼ0.1秒角位の精度がある。しかし、実際には小惑星などの位置は周りの星々の位置に相対的に決定され、その星々の位置精度が約1秒角の誤差があるので、この程度の範囲の誤差はやむを得ない(明るい星の位置精度は0.1秒角よりもよいが、残念ながら、18等−21等級という小惑星の位置参照星としては使えない)。すると、数カ月の観測で決めた軌道精度はかなり悪いことになる。

 図10を見てみよう。天体力学の知識が十分にあればもっと本質的に意味のある図を描けるのであるが、私の力ではこの程度しか言えないので、お許しいただきたい。縦軸は確率分布楕円の大きさを示しているつもりである。数カ月という短時間の観測では数十年後の確率分布楕円はどうしても大きくならざるを得ない。その分布の中心の点でも、楕円全体が大きいので、衝突確率はかなり小さくならざるを得ないのである。そのため、長い警告時間のケースでは最初の数カ月の観測では図11のトリノスケールにおいては1またはせいぜい2でしかあり得ないのである。表2に発見後、数カ月の時点での衝突確率を示してある。1994GVは例外的に大きいが、この数値は誤っていると何人もの人が言っていたので、そのうち修正されるであろう。図12は、有名な1997XF11の場合である。3カ月の観測データで求められた確率楕円が翌日、7年前の観測データが見つかったために、確率楕円は一挙に図13のようになってしまった。この事実によって、天文学者が“狼少年”であったと多くのマスコミが書いたが、それは事実ではない。発表者の表現が悪かったのとマスコミの早とちりであっただけである。

図10 地球に衝突の可能性のある小惑星の発見後に、将来の時刻における誤差楕円の大きさ(r)を示す概念図。

図11 衝突確率と衝突エネルギーを基にして作られたトリノスケール(R. Binzelによる)。

図12 発見後88日間の観測データを基にして、1997XF11が2028年10月26日に地球に接近する時の誤差楕円の大きさ。

図13 図12の発表後、1990年3月23日のデータが付け加えられた結果の誤差楕円。

 図10に戻って、数年後の合の時にも観測されたとしよう。1997XF11のように7年間もの時間間隔があれば、一挙に衝突可能性を否定できるのである。長い警告時間の場合、衝突確率はどうしても1万分の1以下である。そのような衝突の可能性を確率という言葉に隠れて一般に発表すれば、一般の人はひょっとしたらと思う方が通常であろう。そうすると9999回嘘をついて1回だけ当たることになる。その1回があまり嬉しいことではないが、3−4回以内に来れば“狼少年”と呼ばれなくてすむが、何十回も衝突しなければ“狼少年”となり、誰も私達のまじめな活動を信用し、支持してくれなくなるであろう。

 長い警告時間のあるNEAを見つけた時、私達がまずやらなければならないことは、“ほとんど地球に衝突する可能性のないNEAを見つけた。しかし、長い間には衝突する可能性も出てくるので、今後も詳細な観測を続ける。少なくとも5年以内に将来の衝突可能性を明確にするつもりである”と発表することである。情報を隠すことなく、また人々をあおり立てないことが重要である。もちろん、確率の概念がわかる人々や確率についての解説を十分なされた人々にはもう一歩踏み込んだ話をしてもよいであろうが、こういった意味で長い警告時間の時にはトリノスケールを採用するのは止めた方がよい。

 一方、短い警告時間の時はどうであろうか。この場合、短期間の観測であっても、かなり誤差楕円は小さい。衝突確率が0.1を越えるものが現れるかもしれない。その時には私達は何をすればよいのであろうか。幸い、表2に見られるように、そのような例はまだないし、その確率はより小さい。しかし、あり得ないことではない。

表2 いろいろの地球近傍小惑星の発見後数カ月のデータから求めた衝突確率及び衝突可能性の消滅。

   衝突確率のある年    天体名  直径(km)

2003, 2010, 2046      1991 BA   0.01  300,000分の1以下(2003)
2014, 2038, 2044, 2046  1998 OX4  0.2   2,000,000分の1(2044,2046)
2022             2000 BF19  0.5  2000年1月発見、2000年2月新観測で衝突確率が0に
2036, 2039, 2044, 2050  1994 GV   0.01  7,000分の1(2039)
2040,etc.          1997 XF11  2   1997年12月発見、1990年の観測により1998年3月に衝突確率が0に

2041             2000 EH26  0.2  2000年3月発見、2000年4月新観測で衝突確率が0に
2042             1995 CS   0.04  200,000分の1以下(2042)
2042, 2050         1999 RM45  0.5  1999年9月発見、1999年10月新観測で衝突確率が0に
2044,etc.          1999 AN10  1   1999年1月発見、1955年の観測により1999年7月に衝突確率が0に

 10年以内に衝突する確率が0.1以上であれば、隠さず発表すべきである。仮に9回衝突しなくても大部分の場合、素晴らしい天体ショーになるので、人々は満足し、衝突の可能性を実感するであろう。しかし、10年以内に衝突回避する手段は私にはあるとは思えない。静かに残りの時間を送りたい気がするが、世の中が騒がしくなってそうもいかないかもしれない。

 映画のように、アメリカやロシアの軍関係者の中には、宇宙核ミサイルで防ぐべきであると主張している者がいる。これは核ミサイルを何十機何百機の人工衛星に搭載して宇宙核ミサイル防衛網をひこうというものである。私は2つの点からこの考え方に反対である。1つは、このようなシステムを維持するのに毎年膨大な予算がつぎ込まれ、仮に1万年間、小惑星衝突がなければ、それらのお金をドブに捨てるようなものである。しかも、これらのシステムもNEAの検出観測がなければ、何の役にも立たないものである。そのようなシステムを作るくらいなら、そのほんの一部のお金で(具体的には全世界で数百億円)20−30年に直径1km以上のNEAを全検出できるのである。もちろん、100mサイズのものの全検出にはもう1桁以上大きい予算が必要となるが、それでも宇宙核ミサイル防衛網に比べればわずかなものである。もう1つの問題点は、核兵器の温存自体がNEA衝突による人類文明の壊滅より遥かに人類にとって危険なことである。人類を救うべく作られた核ミサイルがいつ地表に向かって発射されるかわからないという恐怖は私だけが感じているものであろうか。

         5.おわりに

 IAUのNEOワーキンググループでは、先に書いたように、長い警告時間のNEAが見つかったとき“その衝突の可能性はほとんどない”と発表することには、全体的な賛同が得られたと思う。

 幸い、私達は科学技術庁、日本宇宙フォーラム、宇宙開発事業団の御支援を得て、美星スペースガードセンターを与えられ、運用させてもらっている。アメリカのNEA観測トップグループのLINEARのチームに負けない成果を最初の小惑星が発見されてから200年目の年から出したいと思っている。そして、そのことを通じて、人類のため、国際社会のために貢献したいと思っている。また、そのためには会員諸氏の今後益々の叱咤激励と応援をお願いしたい。さらには、より多くの日本の方々が日本スペースガード協会に加入し、危険なNEAをより早く全検出することの重要性に対して認識を深めていただき、さらには協会の発展と次なる望遠鏡作りへ向けて資金的なサポートもお願いしたい。

* 本稿は2000年7月22日にCOSPARで発表した論文を基に書き加えたものである。

* 文中NEAとNEOとを区別して書いた。NEOの場合、彗星も含まれる。彗星の衝突確率は小惑星より低いが、無視できないものである。しかし、彗星の衝突を防ぐための観測はNEAの場合と大きく異なる考え方が必要で、ここでは触れないことにした。彗星問題は機会を改めて書いてみるつもりである。


  32号の目次/あすてろいどHP