第12回「星空の街・あおぞらの街」全国大会における
         「宇宙時代とスペースガード」の講演

                            磯部 秀三(国立天文台)


 

 環境庁が主催する全国大会が9月2日3日に岡山県美星町で開催された。大気保全の考え方の普及のために1989年に第1回大会が開かれ、今年で12回目になる。筆者は美星町が1989年に制定した「美しい星空を守る美星町光害防止条例」の制定委員を勤めた関係があり、また、今年から美声スペースガードセンターの設立に当たって、町当局にお世話になったりした関係で、基調講演を頼まれた。
 講演会には全国の市町村の環境部門の担当者や町民の方が200人余り出席した。オープニングセレモニーでは、川口環境庁長官、石井岡山県知事、橋本元総理大臣、それに高円宮殿下が式辞や挨拶等をして、この全国大会の位置付けの重要性を示す演出がされていた。
 基調講演は、武蔵工業大学の乾正雄氏の「夜は暗くしてはいけないか」が最初に行われ、次いで筆者が講演をした。講演時間は予定の50分から40分に減らされ、また、高円宮の退席時間との兼ね合いで、1分も延長してはいけないとの要請があり、少々窮屈なものであった。しかし、200人余りの人が最後まで聞いてくれて、しかも終わった後に前列にいた町のお年寄りの方が、易しく話してくれたので、よくわかったと言ってくれたのは幸いであった。
 講演は、スペースガードとひかり害という2つのテーマを環境保全の観点からどのように対処すべきかを細かいことは言わないで、さらっと話をした。これがかえってよかったようである。いつもの講演では、細かいことまで説明しすぎて、聞いている人の頭を混乱させていたようであったのでは、と反省している。
 小惑星地球衝突問題は滅多に起こらない地球環境問題である。人々はそのような経験をしたことがなく、その関心が低いのは当然であろう。ちょっと前まででは地震も滅多に起こらないので、人々の関心は低かったが、近年テレビが発達して、世界中の地震の情報が次々と報道され、ひょっとしたら自分たちにも降り懸かるのではないかと考える人が多くなってきた。要するに地震が身近なものとなったのである。小惑星衝突は滅多に起こらないが、一度起こると人類文明を壊滅させる可能性がある。その意味では、他の災害に比べて人類にとってより重要であると言える。
 しかし、一般の人の多くは、自分の目の前に危険が迫るまでその問題を気にしない傾向がある。近年、地球環境問題がいろいろ議論されている。環境問題に意識を持つ人も現れるようになってきた。しかし、たいていの環境問題では、ある人が、例えば二酸化炭素を出さないように努力しても、他の多くの人が努力しないので、グローバルには二酸化炭素が増大していく。そして、努力していた人も諦めて努力しなくなることが多く起こっている。写真は日本の夜を人工衛星から見たものである。天体観測の立場からはこれは光害になり、天体観測の精度を悪くする。一方では、これは光エネルギーの損失である。エネルギー問題、二酸化炭素問題と密接に関係している。しかし、他の環境問題と大きく異なる点は、例えば、1つの市や町が光エネルギー損失を減らそうとすれば、その結果をすぐに人工衛星の観測によって示すことができるのである。つまり、努力の結果がすぐに見える形になり、その人の環境問題への意識が高まることになる。
 日本スペースガード協会の活動は、多くの人はまだ理解してもらっていないが、こういった環境問題への意識が高まることにより、人類全体の問題への理解が深まるのではと思う。このような話を予定時間内にして、時間を気にする町の担当者にも喜んでいただいた。
 最後に、民俗学者の神崎氏、作家の加門氏、照明デザイナーの近田氏、美声天文台の小暮氏による「光と闇の調和をめざして」というシンポジウムがあった。第13回全国大会は2001年に群馬県高山村で開催されることになっている。


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