小惑星サンプルリターン・ミッション MUSES-C
            ターゲットの小惑星が変更される

                            吉川 真(宇宙科学研究所)


 

 宇宙科学研究所では、小惑星の表面物質を持ち帰るというサンプルリターン・ミッションを計画しています。ミューゼス・シー(MUSES-C)というミッションです。今までは、2002年の夏打ち上げの予定で準備を進めてきました。ところが、2000年2月のX線天文衛星ASTRO-Eの打ち上げにおいて第1段ロケットに不具合が生じ、打ち上げ失敗という事態になり、状況が急変することになりました。

 この打ち上げ失敗につきましては、ロケットのどの部分に問題があったのかは分かりましたので、次の打ち上げに向けてロケットを改修します。この改修にちょっと時間がかかるため、当初予定していた2002年夏のMUSES-Cの打ち上げが難しくなったのです。それで、宇宙研では、急遽、別の小惑星に行けないかどうかの検討をしました。

 検討の結果、1998 SF36という仮符号が付いた小惑星なら可能性があるということになりました。「可能性がある」という意味は、宇宙研が持っているM-V型ロケットの打ち上げ能力で探査機を小惑星まで送ることができるということと、探査機の設計をあまり大幅に変更しなくても済むということです。また、ミッション自体をあまり延期したくないわけですから、探査機打ち上げ時期が2002年の夏よりもちょっとだけ遅れれば済むということも重要な条件になっています。

 このような条件を満たす小惑星はなかなか存在しないわけで、むしろ1998 SF36という小惑星が存在したこと自体がかなり奇跡的です。この小惑星の軌道を図に示しますが、地球の軌道の内側まで入り込むアポロ型のNEOです。

 それまでターゲットになっていた小惑星は1989 MLというもので、最近確定番号が10302と付いたものでした。実は、この小惑星も最初に探査のターゲットになっていたネレウスという小惑星の代わりにターゲットになったものです。(ただし、1989 MLは最初からネレウスのバックアップとなる天体になっていました。)従いまして、ターゲットの変更は今回で2回目となります。

 新しいターゲットとなる1998 SF36という小惑星は、1998年9月26日に、LINEARプロジェクト(MITリンカーンラボラトリ)によって発見されたものです。発見されてからたった46日間の観測しかなく、まだ軌道決定精度がよくありません(2000年9月の時点で)。また、その明るさから直径は1km程度であろうと推定されていますが、その他の情報もまだほとんどありません。2001年の初めくらいからは明るくなってくるため、また観測ができるようになります。そのときに得られるデータがミッションにとって非常に重要になります。2001年3月には、地球に0.04天文単位まで接近もします。

 MUSES-Cというミッションは、いくつか世界初の試みを行いますから、まだまだ前途多難です。でも、近い未来に、小惑星の素顔を私達に伝えてくれることを期待したいと思います。

小惑星1998 SF36の軌道。
円形に近い軌道は、内側から水星、金星、地球、火星で、地球軌道の内側から火星軌道の外側まで達する軌道が1998 SF36。この小惑星は、近日点距離が0.95天文単位、遠日点距離が1.70天文単位のアポロ型小惑星である。軌道傾斜角は1.6度と黄道面に非常に近い。


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