図1 “アステロイド・キャッチャー B-612”の初期画面。B-612とは、サンテグジュペリの「星の王子さま」の故郷の小惑星の名前からとりました。
 美星スペースガードセンターの画像データを用いた教育プロジェクト
 
      −スペースガード探偵団 「ホシは小惑星だ!」−
                                  

                                吉川 真(宇宙科学研究所)



 ついに21世紀になりました。世紀末というネガティブな響きから新世紀という期待に満ちた新たな時代への幕開けです。

 日本スペースガード協会では、この新世紀にふさわしいとも言えるプロジェクトを始めました。それは、美星スペースガードセンターで撮影された画像を皆さんにお配りして皆さんに小惑星探しをしていただくというプロジェクトです。そのプロジェクト名は、
 「スペースガード探偵団 −ホシは小惑星だ!−」
です。これは、スペースガード協会の事務所で仕事をしていただいています浜村しおみさんによるネーミングです。

 このプロジェクトの最初の試みとして、読売新聞社とブリティッシュカウンシルと共同しまして
   「国際小惑星監視プロジェクト」
というものを開始しました。昨年の12月14日付けの読売新聞にこのプロジェクトに関する記事が掲載されましたので、すでにご存知の方も多いことと思います。このプロジェクトもその趣旨は上記の「スペースガード探偵団」と同じです。ご関心のある方は、是非、参加してみてください。(「国際小惑星監視プロジェクト」は2001年3月で終了しますが、その後は日本スペースガード協会独自の「スペースガード探偵団」のプロジェクトを継続していく予定です。)

 さらに、ブリティッシュ・カウンシルが国際的にコーディネートした天文教育プロジェクトであります
  「 International Schools' Observatory (ISO) 」
というプロジェクトでも、「スペースガード探偵団」は中心的な位置を占めています。こちらのプロジェクトは、イギリスのリバプール・ジョン・ムーア大学の天文教育プロジェクトと日本スペースガード協会のプロジェクトとが協力関係を結んだものです。リバプール・ジョン・ムーア大学の天文教育プロジェクトとは、カナリー諸島にある島に口径2mの望遠鏡を設置するのですが、その望遠鏡の観測時間の一部を教育活動に利用しようというものです。(「あすてろいど」No.00-03、通算31号にこのプロジェクトに関係した会合の報告があります。)

 以上のように、美星スペースガードセンターにおける小惑星やスペースデブリの観測活動から、思わぬ方向に話が広がっていっています。

 さて、このようにプロジェクト名としてはいくつかありますが、基本的なことはすべて同じです。これらの教育プロジェクトの流れは次のようになります。

(1) 参加者(個人またはグループ)を募集する。参加者には解析用のソフトウエア一式を配る。(無償)

(2) 美星スペースガードセンターで取得した画像データを、参加者に配布する。(インターネット経由かCD-ROMで)

(3) 参加者は画像を解析し、小惑星を探す。小惑星が見つかったらその位置を計測して、結果を日本スペースガード協会に報告する。

(4) 報告された結果について日本スペースガード協会で吟味をし、報告した人に返事を送る。

 ここで解析用のソフトウエアとして、「アステロイド・キャッチャー B-612」というものをお配りします。このソフトは、日本スペースガード協会が中心となって多くの方々にボランティアとしてご協力いただいて作成しました。その最初の画面を図1に示します。このソフトに美星スペースガードセンターで取得された画像を読み込ませて小惑星を探すわけですが、その探し方としましては「ブリンク」と呼ばれる方法を用います。これは、夜空の同じ領域を時間をおいて何枚か撮影したものを、連続的に画面に表示するものです。相対的な位置が変わらない恒星は止まって見えますが、移動している小惑星などの天体は動画のように動いて見えます。この動いている天体を探すのです。ブリンクの画面を図2に示します。

 ブリンクによって動いている点を発見したら、焦ってはいけません。というのも、本物の天体ではなくて、ノイズと呼ばれる偽のデータが沢山あるからです。ノイズには、CCDカメラのハードウエアに起因するものや宇宙線などによる信号など様々なものがあります。このようなノイズと小惑星とを見分けるには、ちょっと経験が必要です。十分に吟味した上で、ノイズではないと思われるものにつきましては、小惑星の可能性が非常に高いことになります。そのようなものについては、位置を計測しておきます。位置計測の機能もこのソフトウエアに付いています。
 このようなやり方で美星スペースガードセンターの画像の解析が終わりましたら、計測したデータを日本スペースガード協会の所定のアドレスにメールで送ってもらうことになります。日本スペースガード協会では、報告された計測データを調べて、それが本当に小惑星なのか、小惑星だとしたら既知のものか新発見のものかを報告者にお知らせ致します。

 多くの場合、発見される小惑星はすでに知られたものであることでしょう。しかし、新発見の小惑星もかなりあるはずです。といいますのも、未発見の小惑星がまだ非常に沢山ありますから。是非、皆さんも小惑星を自分の目で発見してみませんか。


※ここで述べましたプロジェクトに関する具体的なことは、日本スペースガード協会のホームページをご覧ください。
  (http://www.spaceguard.or.jp/)


謝辞:
 「アステロイド・キャッチャー B-612」を作成するにあたりまして、プログラムの作成をしていただきました金田宏氏、オープニングのイラストを作成していただきましたおぐらあけみ氏、星表のフォーマットを提供していただきました加藤太一氏、マニュアルのキャラクターを作成していただきました佐藤みさお氏にこの場を借りまして感謝いたします。また、このソフトウエアは、財団法人日本宇宙フォーラムの多大な協力のもとに作成されました。日本宇宙フォーラムおよび同財団の横田孝夫氏には、特に感謝いたします。なお、個人名は省略致しますが、BATTeRSプロジェクトのメンバーの献身的な協力がありましたこともここに記しておきます。

図3 「国際小惑星監視プロジェクト」を記念した講演会が、昨年12月3日(日)、科学技術館サイエンスホールにおいて、読売新聞社、ブリティッシュ・カウンシル、日本スペースガード協会の主催で、開催された。