皆既日食観測地点
                   −ラノヒラ、イサロ国立公園−

 日食観測に強い関心を持ち、しばしば出かけられる方は、よく「三勝一敗」だとか「五戦全勝」といったことを口にして、自らの経歴を披露する。それは要するに、観測に出かけた場所で天候に恵まれたかどうかということらしい。今回の皆既日食を行おうと考えたマダガスカルのイサロ国立公園付近は、こと天候に関しては、これも過度の期待をしてもよいように思われる。日食の見られる6月21日というのは、まさに乾季の真っ只中だからである。ただ、日食の起きる時刻の太陽高度が低く、それは非常に厚い大気層を通して見ることになるので、日食の影響で発生する雲の行方は気になる。しかし、これは心配したからといって、どうなるものでもない。


 もう一つ、日食観測地点の環境という問題がある。今回、皆既日食の中心線がイオシと、イサロ国立公園の入り口にあたるラノヒラを結ぶ中心点附近を通る。ここは見渡す限り、360度にわたって地平線を展望できる荒野である。夜になれば、プラネタリウムのような南天の夜空が広がる。これ以上の条件を望むべくもない。


 ただ一つの残った課題は宿泊施設である。ラノヒラにある既存の宿を総動員しても、予想される膨大な数の人員の何パーセントにも相当しないらしい。しかし、限りなく広がる空を眺めていると、ちまちましたホテルなどに泊まるより、この大自然の中で一日中過ごせたらという気持ちになってくる。それに応えるように、国、あるいは民間レベルでの仮設キャンプ場計画が検討され、一部建設も始まっていた。


 ごく最近の浅川さんからの連絡によると、ラノヒラに一万人収容規模のキャンプ場がフランス軍専門家の指導で建設されることが決まったそうである。テント内には折畳式ベット、その他テーブル、椅子などが用意され、多人数が収容できるヨーロッパ式カフェテリア及びマダガスカル料理を提供する現地風レストランが設営されるということである。また、警備はマダガスカル軍によって行われ、キャンプ地は使用後、自然保護の目的で完全にもとに戻す作業も行われるということである。これはキャンプといっても、かなり立派なホテル並になりそうで、ひとまずは安心したというところである。


図上:イオシからラノヒラに向かう途中。この附近を皆既日食の中心線が通る。赤土の道が地平線に消え、360度視野を遮るものはない。

図下:マダガスカルでは牛が非常に多く、背中のこぶが特徴である。したがって牛肉は豚肉より安い。