ジャカランダの花の咲く頃
        −マダガスカルの初夏−

 日本では四月になると、普段素っ気ない街並みも、白く清楚な桜の花が雰囲気を一変させる。同様のことが10月末から11月にかけて、首都アンタナナリポでも起こる。ジャカランダの開花である。淡い紫色の花が街のいたるところに咲き乱れる。やがて始まる雨季を前にして、街が精一杯のおめかしをして見せたといった感じである。タナの町も捨てたものではない。


 花といえばだんご。いや、マダガスカルの食事にまだふれてなかった。マダガスカルでの、実にささやかな経験から推察するに、マダガスカル人の温厚な気風はその料理の味にも色濃く反映されているように見える。味が実に淡泊で、かつ熱帯であるにもかかわらず、辛いという料理にめぐりあうことがなかった。もちろんカレー料理も例外ではない。ただ、非常にポピュラーなサカイと呼ばれる香辛料がある。これは唐辛子を塩で煮詰めたような感じで、指先につけて一なめしただけで、一週間分の辛みを補給できそうな感じである。あるレストランでカレーソースだけを特別に注文し、サカイを入れてかき回したら、マダガスカル版極辛カレーを堪能することができた。それはともかく、マダガスカルは、一人当たりのお米の消費量が世界で最も多い国だそうである。お米と淡泊な味、それだけ聞いても日本人の口に合うことは疑いの余地がない。


 とまあ、大まかなマダガスカルの感想を書いてきたが、これで止めると、一番大事なものを忘れていないかという声が聞こえてきそうである。そう、マダガスカルのお酒。とはいっても、暑い国で、酒にうんちくを傾けるなどというのはあまりいただけない。ビールはわるくない。しかも、値段は水を買うのと変わらない。ただし、地方にいけば気温とあまり差のない温度で提供されることもあることを心しておく必要はある。ワインは赤、白、グレーとあってなかなかいける、という程度に止めておく。


 ところで、いつも旅が終わりになるとき、残り少ない余生を考えて、この国を、あるいはこの町を再び訪れることはないだろうな、といささか感傷的になるのが常である。しかし今回は違う。来年六月には再び、マダガスカルを訪れるのである。その時にこの国はどのような姿で迎えてくれるのだろうか。


図上:首都、アンタナナリポの中心にあるアノズィ湖、岸辺をジャカランダの紫の花が取り囲む。

図下:インド洋に沈む夕陽。海に落ちた椰子の実は日本にたどり着くことがあるのだろうか。(モロンダバ)