最近の話題から 
磯部 しゅう三(国立天文台)

         2000年におけるNEA検出状況

 美星スペースガードセンターにおける小惑星探査観測が、低レベルではあるが始まった2000年である。今夏には1m望遠鏡が入ってきて、より本格的な観測が始まる。
 2000年における検出観測は、アメリカの5つのチームが中心で、特にLINEARによる検出数が突出している。地球近傍小惑星の検出数は表の通りである。期間は満月から満月までの期間で、表の数字は年単位での新月の時を示している。絶対等級の18等級は、直径1km程度の小惑星に相当する。全地球的な破壊を起こすレベルのものである。これで地球近傍小惑星は全部で1,254個、1km以上のもので467個見つかったことになる。1999年には1km以上のものは毎月平均7.5個見つかっていたのが、2000年には10.5個になり、発見観測が充実してきたことがわかる。日本の1m望遠鏡が加われば、ますます加速することが期待される。
 新発見の中には美星スペースガードセンターが見つけたNEAとして2番目に大きい2000UV13を始めとして、13等級より明るいものが4個、13等と14等の間のものが14個、14等と15等の間のものが8個、15等と16等の間のものが18個あった。けっこう大きなNEAも見つからずに残っていたことがわかる。発見数のうち、75パーセントをLINEAR、7パーセントをLONEOSが見つけている。
 これまで発見されたものの軌道解析から、いろいろな研究者が絶対等級が18等級より明るい地球近傍小惑星の総数を見積もっているが、ほぼ1,000個前後という数字になっている。これが正しいとすると、すでに約半数のものが発見されていたことになる。2001年からアメリカの5つのチームの観測体制が強化され、日本の1m望遠鏡も動き出すので、その発見数はより拡大すると期待される。
 一方、注意しておかなければならないのは、これらの数字を見ていると、瞬くうちに全て発見し尽くされそうであるが、実際には残り数が減ってくると、発見の可能性がどんどん減ってきて、特に最後の10パーセントを切ると、全チームが協調して観測しても、1つまた1つというゆっくりとしたペースになりうる。まだまだ観測体制充実が必要である。特に直径1km以下の地球近傍小惑星は何百万個もあり、望遠鏡の口径を含めて、観測体制の飛躍的な改善がなければ全検出までかなり長い期間を要することになる。いずれにしても、2000年の発見数の増大は喜ばしいことで、アメリカのチームに感謝したい。    
期間    個 数      個 数 
    (絶対等級18より明るい) (全て)
2000.01     6        19 
2000.10    10        28
2000.18    16        40 
2000.26    12        30
2000.34     9        25 
2000.42     6        21 
2000.50     5        7 
2000.58    12        29 
2000.66    10        35 
2000.74     9        43 
2000.82    10        24   
2000.90    13        43 
2000.98    10        27
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       125       371

         2001DO47の発見

アメリカ・アリゾナ大学のスペースウォッチ望遠鏡が2月19日に地球近傍小惑星(NEA)を発見した。これは、地球から0.0039天文単位、約50万kmにまで近づくもので、2001年8月19日には月のごく近くをかすめることがわかった。しかもこの2001DO47と名付けられた物体は、地球−月系の周りに常にあることから、詳細な計算の結果、1994年に打ち上げられたWIND衛星であることがわかった。人工衛星やロケットは地球の周りのスペースデブリとなるのが一般的であるが、太陽系空間のデブリとなったものもあることが次々と示されてきている。

     米国のNEA検出用巨大掃天望遠鏡計画

イギリスでは、2000年1月に科学大臣が、NEO問題に関する調査をするために作業部会を設立し、その答申が10月に出された。その答申に対して、科学大臣による答弁書がこの2月に発表されたが、答申の前向きの姿勢に対して、その意義を認めつつも、予算の裏付けのある方策は一つも示されなかった。しかし一つ前向きに受け止めるべきことは、各国、特にEC(ヨーロッパ共同体)との協調を打ち出したことであろう。
これが実際の動きになれば、アメリカ、日本等でのNEO活動に対して、政府レベルの支援が受けやすくなることが期待できる。

アメリカの天文学のコミュニティでは、10年に1回毎に次の10年間にどのような計画を推進すべきかを順位をつけて政府に提出している。そして、実際には10年以上かかることがあるが、ほぼ実現してきている。ハッブル宇宙望遠鏡や南北両半球に8m望遠鏡を1台ずつ設置するジェミニ望遠鏡等が実現したのである。

2000年に発表されたものの第1位は地上では口径30mの望遠鏡、スペースでは8m鏡を持つ宇宙望遠鏡が提案されている。これらをすばる望遠鏡やハッブル宇宙望遠鏡よりかなり低い予算で完成させようというものである。地上の3番目の提案として、口径6.5mの掃天望遠鏡がある。視野を広くして、毎月1回全天を掃天しようというものである。これにより、直径300m以上の地球近傍小惑星検出や、カイパーベルト天体検出、超新星の検出を効率的に行う予定である。

イギリスの作業部会の答申には、口径3mの望遠鏡が提案されていたが、この実現にはかなり時間がかかるであろう。しかし、アメリカの計画は、過去40年の経験からすると実現するであろう。総予算は、1億7,000万ドル(約200億円)で、30m望遠鏡に匹敵する額であるが、この点からも大望遠鏡の広視野化がいかに大変であるかわかるであろう。ちなみに、美星スペースガードセンターの1m望遠鏡は、3度角という広視野にするために通常の1m望遠鏡の倍以上の費用がかかっている。

アメリカの天文学のコミュニティから、このような計画が推薦されるのを見ると、その視野の広さ、広く物事を考える能力を持っているかがよくわかる。日本のコミュニティも自身の目先だけではなく、広い視野が持てるようになってほしいものである。

       小惑星エロスのガンマ線放射

アメリカのNEAR Shoemaker探査機は、小惑星エロスを周回し、貴重な表面画像データを多量に送ってきた。そして、最後の段階で、その表面に着陸を試みた。このことは、本来の計画にはなかったことで、軟着陸ができなく、カメラなどは壊れてしまった。しかし、ガンマ線検知器は正常に作動していた。

2月12日の着陸後約7日間の観測が行われ、エロスの表面から予想をはるかに超えるガンマ線が検出された。このことは、エロスの表面がかなり強い高エネルギ−粒子によってたたかれていたことを示し、太陽系の近くで、そう遠くない時期に超新星爆発があった可能性が強い。

太陽系は約1億年ごとに銀河系内で超新星爆発を起こしやすいところを通過する。そのような予想を裏付けるものである。一方、最近の新聞報道によると、東大の佐々木が隕石物質と小惑星表面物質との間に、かなりはっきりとした違いがあることを示した。これは、小惑星が壊れて、内部の物質が隕石になって地上に落下したためと考えられる。比較的小さな地球近傍小惑星の起源もこのようなところに求められるのかもしれない。

探査機のガンマ線検出器は、太陽系空間のガンマ線の分布を求めるためのものであったが、着陸してみると思いがけない結果が得られた。最高の検出器が作られれば、思いがけない発見があることの1つの重要な例を示してくれたように思う。

    観測史上5番目の近距離となる小惑星接近
 
 世界時で2001年1月15日に、小惑星 2001 BA16 が地球から約30万kmの距離のところを通過しました。これは地球−月の距離(約38万km)よりも小さなもので、マイナープラネットセンターが公表している小惑星の接近距離のランキングでは5番目に近い接近です。

 この小惑星の絶対等級は25.8等ですから、せいぜい直径が30m程度と思われます。非常に小さな天体ですので、仮に地球に衝突したとすると、上空で分裂して大火球となったであろう、と考えられています。上空で分裂するかどうかやどのくらいのサイズの破片に分裂するかは、その天体の組成にもよりますのではっきりとは分かりません。ただ、仮に地球に衝突していたとしても大きな被害は被らなかったと考えられます。
ちなみに、この天体は、アメリカのLINEARのプロジェクトが1月19日に発見しました。最初に観測された最接近から3日以上経過していたわけで、上記の最接近距離は推定された軌道から計算されたものです。
                                     (吉 川)