美星スペースガードセンターからの報告
国際小惑星監視プロジェクトの報告
        −次はいよいよ「スペースガード探偵団」−

吉川 真(宇宙科学研究所)

 小惑星探しを多くの皆さんにも楽しんでもらいたい・・・。そんな夢が、思いがけず早く実現しました。それが「国際小惑星監視プロジェクト」です。これは、読売新聞社、ブリティッシュカウンシル、日本スペースガード協会が共同して企画しました。美星スペースガードセンターで撮影された画像を皆さんに配布して、小惑星探しをしてもらおうというプロジェクトです。

 まず参加者の募集ですが、2000年12月14日の読売新聞紙上でアナウンスされました。そして、年明けて1月末頃まで参加者を募りましたが、応募してきたグループの総数が430余り、総人数では1300人という予想を大きく上回るものでした。こんなに多くの参加があるとはと、スタッフの間でも喜びと不安とが交錯します。
 応募者には、まず2月初めに小惑星を探すためのソフトウエア「アステロイド・キャッチャー B-612」が入ったCD-ROMを送りました。そのCD-ROMにはサンプルの画像も入っていますから、小惑星探しの練習もかねてソフトの使い方をマスターしてもらいます。そして、2月半ばには、実際に小惑星探しを行ってもらうための画像ファイルが入ったCD-ROMを配布しました。報告の締め切りは3月4日。約2週間かけた小惑星探しの始まりです。
 今回は、読売新聞社の希望もあって、小惑星探しをコンテストにすることになりました。つまり、小惑星の発見個数を競ってもらうのです。そのために、画像ファイルもCD-ROM1枚がほぼいっぱいになる量を準備することにし、合計19セットのデータ(1セットあたり4枚の画像ファイルでしたので、合計76枚の画像ファイル)を用意しました。このデータは、主に1月に美星スペースガードセンターのスタッフが頑張って撮影してくれたものです。

 画像ファイルのCD-ROMを送ってから少しすると、小惑星の発見報告が日本スペースガード協会に電子メールで送られてくるようになりました。報告は電子メールを使ってもらうことになっています。どのくらいの報告がくるのでしょうか・・・。ちょっと不安になります。しかし、締め切りの2日前くらいになると、続々と報告のメールが届きだしました。結局、3月4日に報告を締め切ったときには、133件の報告がきていました。プロジェクトに参加を申し込んだグループ数が430グループ余りですから、報告してきた人は全体の3分の1以下です。ちょっと少ないような気もしますが、この小惑星探しはかなり大変な作業ですから、むしろ130件もの報告が来たのはかなり優秀だと言えると思います。この133件のうち、中学生と高校生のグループがそれぞれ20くらいで、残りの90近くが大学生以上一般の方でした。
 さて、それからが大変です。報告された結果をすべてチェックして、それぞれのグループが何個の小惑星を発見したかをカウントしなければなりません。中には、何千件ものデータを報告してきている人もいます。もちろん、そんなに沢山の小惑星は撮影されていないわけで、そのほとんどがノイズなのですが、本物かノイズかをきちんと区別しなければいけません。実際には、そのチェック作業のための下準備がまず非常に大変でした。というのも、今回は結果を電子メールで報告してもらったわけですが、データのフォーマットが違っていたり、データが行の途中で改行されていたり、要求されたファイル形式で送られてこなかったりして、そのままチェックができない報告がかなりあったのです。事前に配布したマニュアルやさらにはCD-ROMと一緒に送った手紙ではしつこいくらい報告の仕方を説明してあったのですが、ダメでした。どうして手紙を読んでくれないのでしょう? 本来ならば、規定通りに送られなかったデータはすべてリジェクトしてしまうところなのですが、どれも参加者の皆さんが一生懸命作業したものだと思うとそうもできずに、すべてこちらで正しい形に修正して、データの中身をチェックすることにしました。なお、チェックは、事前に美星スペースガードセンターのスタッフが小惑星を発見しておいたデータと比較したり、疑わしい報告については、再度調べなおしたりして行いました。このチェックには、美星スペースガードセンターのスタッフ全員で約1週間かかりました。

 そのチェックの結果、入選者が決まりました。入選者のリストを示しておきます。大学生以上の一般の部で1位となった小林さんは212個もの小惑星を発見されました。美星スペースガードセンター側で発見した小惑星の数は227個ですから、ほとんど発見されたことになります。そして、2位の真弓さんの176個、3位の宮下さんの167個と続きます。実は、3位以下10位くらいまでは発見個数が数個の差で非常に僅差でした。
 高校生の部では、151個発見した石川県立金沢泉丘高等学校が1位で、2位が142個発見した東京都・私立駿台学園中学高等学校、そして3位が個人参加の樋口さんで131個の発見でした。中学生の部では、鹿児島県指宿市立北指宿中学校が128個を発見して1位、2位が90個発見した岡山県金光町立金光中学校、そして3位が86個発見した東京都世田谷区立梅丘中学校でした。いずれのグループまたは個人の方も非常に頑張られたと思います。また、上位には食い込めなくても熱心に小惑星探しをしていただいた方が、非常に沢山いらっしゃいました。(入選者は、3月20日の読売新聞紙上で発表されました。また、詳しい報告は3月27日の読売新聞夕刊に掲載されています。)
 このプロジェクトでは、実に多くの皆さんから問い合わせや感想、コメントのメールをいただきました。また、かなり多くのクレーム(苦情)のメールも届いています。それらのメールにつきましては、私自身や美星スペースガードセンターのスタッフの西山さんがすべて回答しています。中には、かなり気分を害するようなメールもありました。礼儀作法を知らないぶっきらぼうなメールとか、こちらから回答のメールを送っても何の返事も無いとか。モラルの欠如としか言いようがありません。これは、ネットワークの持つ匿名性のためなのでしょうか? それとも、コンピュータという機械を相手にしているせいなのでしょうか? ネットワークの背後には必ず人間がいるということを忘れてしまっているかのようです。ネットワークやコンピュータというものは、これからますます生活に密着していくこととになるかと思いますが、果たしてこのままでよいのでしょうか。

 ちょっと話題がそれてしまいました。また、「今の若者は」的な愚痴にもなってきたのでこの辺でやめておきましょう。もちろん、きちんとしたメールも沢山いただきましたし、礼儀正しい対応も多々あったことも事実です。(ちなみに、ネットワーク上で無作法なのは、若者だけとは限らないようです。)
 そのようなメールの洪水の中で、本当にほっとさせられるメールもありました。例えば北指宿中学校の畠中先生からいただいたメールがその1つです。ご本人の了承を得ていますので、畠中先生のメールの抜粋を載せさせていただきます。このようなメールがあると、このプロジェクトをやって本当によかったと思います。ここでは掲載しませんが、他の方からも同様なメールを何通かいただいています。

 確かにいろいろなことがありましたが、最終的にはこのプロジェクトをやってみて非常によかったと思います。実際、このプロジェクトのように小惑星探しなど今までやったことのないような人がこれだけ多く参加して小惑星探しに熱中したということは、世界でも初めてのことなのではないでしょうか。何人かの参加者の方からは、是非、次のプロジェクトに参加したいという声が届いています。また、今回のプロジェクトが成功したことを受けて、ブリティッシュ・カウンシルが中心となって海外でも同様な試みを行おうという動きが具体化してきています。

 さて、次プロジェクト、それは、「スペースガード探偵団 −ホシは小惑星だ!−」です。「国際小惑星監視プロジェクト」では、基本的には既知の小惑星を発見してもらうことを目指しました。これは、初めての試みであるためにあまり難しいものにはしたくなかったことと、美星スペースガードセンターの観測システムがまだ本格運用にはなっていなかったためです。既知の小惑星では面白くないと思われるかもしれませんが、その代わり沢山発見してもらおうという方針にしました。しかし、次のプロジェクトである「スペースガード探偵団」では、是非とも未知の小惑星探しを皆さんにやってもらいたいと思います。もし未知の小惑星を皆さんが発見できれば、皆さん自身がその小惑星の発見者となるのです。そのためには、まずは美星スペースガードセンターの観測システムが本格的に動き出す必要があります。もうしばらくお待ちください。そして、今回のプロジェクトの経験を生かして、よりトラブルの少ない運営を目指したいと思っています。

 最後に、今回の「国際小惑星監視プロジェクト」につきましては、多くの方にご協力をいただき本当にどうもありがとうございました。また、興味を持って申し込んでいただいた皆様、そして実際に熱心に小惑星探しをしてくれた皆様にも感謝をしたいと思います。そして、今後もこの小惑星というものに関心を持っていただければ幸いです。
                            (2001.04.14)
北指宿中学校の畠中先生からのメール(抜粋)

北指宿中学校の畠中登志也です。(登録番号 : ISAP299 )
今回「国際小惑星監視プロジェクト」に参加させていただいて、子供たちの新しい能力を発見させていただきました。

これまで、あまり目立たない子供たちが、目を輝かせて、画面を覗き込み、小惑星探しに専念している姿は、とても新鮮で喜ばしいものでした。

「自宅でもできないのか?」とパソコンの使い方をより深く学習できたものもいれば、「うちはMacだから・・」とさびしそうにするものもいました。(次回は是非Mac版も準備していただければ。。ちなみに私はWinユーザー)
(中略)
この活動で気が付いたことは、小惑星の移動がランダムではなく、同一方向へ移動していたことです。このことに気が付いてから、発見作業と誤データの確認が極めて早くなりました。
(中略)
最後にこのような企画に参加できたことを心から喜びたいと思います。