小惑星観測の楽しさ

前野 拓 (国民宿舎 みとこ荘)HGE00344@nifty.ne.jp



 この度、JSGAの研究助成金をご支給いただくことになりました、徳島県宍喰町、国民宿舎「みとこ荘」天文台カノープスの前野 拓と申します。この数ヶ月、自分でも思ってもみなかった方向に物事が進んでおり、少々戸惑いながら現在に至っております。どういったことからこのよう
な状況になったかをお話いたします。

みとこ天文台カノープス
 四国南東部、徳島県海部郡宍喰町、高知県境にあるこの小さな町に、国民宿舎「みとこ荘」はあります。建物は、海に突き出た小さな半島の少し高台に建っており、眼下に太平洋を望み、風光明媚な環境で、海の幸が豊富なことや、天然の温泉などがあり、全国各地より宿泊者の訪れる、人気の高い宿舎となっています。
 夜空のほうは、近隣町村も小規模で、付近に明るい照明も少なく、大きな工場がないことや車の通行量も決して多くないことなどから、空気も澄んでおり、美しい星空が望める環境が保たれています。
 今からちょうど10年前、主に宿泊客などにこの美しい星空を楽しんでもらうこと、またもう一つは集客の目的で、みとこ荘に小さな天文施設が作られました。施設の名前は、「みとこ天文台カノープス」。カノープスが南極老人や老人星と呼ばれ、めでたい星として親しまれていることや、徳島県最南端の町で、カノープスが見やすいことなどからこの名前が付けられました。
 直径3mのドームの中には、口径15cmの屈折望遠鏡が据えられています。また、ドームの外には、同口径の大型双眼望遠鏡が設置されています。
 私は、この施設で、設置当初より、星空案内係として勤務しています。晴天時には、星空観望会を実施し、年間4?5千人が参加して、宍喰町の美しい星空を楽しんでおられます。
 星空観望会の後は、自由に施設が使えるので、その時間帯を利用して、少し前より小惑星の観測を始めました。


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画像1. みこと天文台カノープスの全景です。
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画像2. 月に照らされた海とみこと天文台です。

冷却CCDカメラ
私は、根っからのぐうたらです。しかし、ぐうたらな人間でも、何か出来そうやと思ったのが、冷却CCDカメラを見たときでした。パソコンが必要ですが、わずかの露出時間で撮影でき、現像の必要もなく、その場で結果がわかり、気に入らなければ何回でも取り直しが利く、しかも、ソフト上で、二つのコマを明滅させ、新天体を検出することが出来るという、まるで魔法のカメラのように思いました。これなら、もしかすると小惑星や、超新星を見つけ出すことも可能だと直感的に思いました。
しかし、一般に普及し始めのころは、これまた悪魔のような価格で、とても手を出せる代物ではありませんでした。最近になって、性能のよいものがどうにか手の出せる価格になってきたので(といっても私にとっては小悪魔のような価格ですが)、思い切って購入したのが99年11月のことです。
購入したカメラの性能は、約80万画素で、みとこ天文台の口径15cmF5の望遠鏡では、約30分×22分の範囲を写すことが出来ます。

2000 WT123
CCDカメラを購入して1年ほどは、子供のころに見たパロマー山天文台で撮影された写真と見紛うような画像が、わずか口径15cmの望遠鏡で、しかも短時間に撮影できるのが嬉しく、有名な天体ばかりを次々に撮影して楽しんでいました。
(http://member.nifty.ne.jp/starry/にその画像がありますので、よかったら覗いてください)そして、ちょうど1年経った2000年11月22日、何気なく撮影したNGC1637と呼ばれる銀河の近くに、 17等星くらいの小惑星があるのを見つけ出しました。 以前にもこういったことがあり、その時は調べてみると、すでに検出済みの小惑星ということが分かり、一件落着したのですが、今回同じようにチェックしてみると、どうもまだ未検出のもののようでした。
とりあえず報告せなあかんと思い、大体の位置を洲本の中野主一さんに報告しました。(この時点では、報告の方法があることなど全く知らず、彗星と同じように、大体の位置さえ報告さえすれば、後は専門機関が確認するものと思っていました)すると、中野さんから折り返し、小惑星の発見の場合は、精測位置を報告するようにとの連絡がありました。精測位置といっても、その計測方法など、全く知らなかったので、その旨を伝え、折角の発見がフイになったと思っていました。
その後、苦労しながらこの小惑星の追っかけをやっていたのですが、一週間経っても一向に検出された様子がありませんでした。そのとき、これはこのままではこの小惑星が迷子になってしまうかも知れないと思い、精測位置の計測を行うことにしました。
以前より、astrometricaというソフトが計測に使用されているということは知ってはいましたが、実際に使ってみたことはありませんでした。そこで、それを使い始めましたが、マニュアルが英語で書かれていることなどで(英語はまさに天敵で、中学生の時からテストや進級のたびに成績判定会に持ち込まれ、そのつど、追試、再試、補習で切り抜けたというスリリングな思い出があります。当然現在もまったく分かりません)、使い方がほとんど分からず、試行錯誤の作業を繰り返すことになりました。それでもどうにか精測位置らしきものを算出することが出来、早速中野さんに報告しました。ところが、どうも報告のフォーマットがあるらしく、違うフォーマットでは送るなとのお叱りのメールをいただくことになってしまいました。フォーマットと言われても、これまた分からない。しかし、小惑星を迷子にはしたくない。どうしようもなく、今度は、愛媛県の久万町にある久万高原天体観測館の中村彰正さんに助けを請うことにしました。
そして中村さんより丁寧なご指導を受け、ようやく報告の方法を知ることが出来たのでした。その後、IAU小惑星センターのホームページに、報告方法の詳細が掲載されているのを知りました。小惑星の捜索を行うなら、こういったところを先に覗いておくべきですね。(でも、英語なので)この間、鳥肌が立つほど驚き、嬉しかったことがあります。中野さんが、違うフォーマットにもかかわらず、計算を行い、小惑星センターに報告してくださっていたことです。そのおかげで、この小惑星に、2000 WT123という仮符号が付けられたのでした。(仮符号が付けられた経緯については、上記のような私の不手際があったので、よく分かっていません)その後、正式に報告を行い、思いもよらず天文台コード(342)まで取得させていただくことになりました。

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画像4. 2000 WT123の発見の画像で、ほぼ1時間おいて撮影した画像の合成画像です。右上の銀河は、NGC1637です。