アリヴェデルチ・セレス (セレスでまた会おう) 前 編

-小惑星発見200周年記念学会「Asteroids 2001」顛末記3-
寺薗 淳也 (日本宇宙フォーラム)




戦うポスターセッション

 学会は、いわゆる口頭発表(オーラルセッションという)だけではなく、ポスターセッションというものがある。ご存じない方のために簡単にご説明しよう。最近では発表が増えて、口頭発表だと1人2、3分などという学会もある。これでは十分に説明し切れない。そこで、各自の発表内容を1枚のポスター(大きさ2m四方くらいのスペース)にあらかじめ書いておくのである。1つの部屋にこういったポスターを集めて、発表者が自分のポスターの前に立って説明する。聞きたい人は興味があるポスターのところに行って、発表者と議論したり、情報を聞き出してもよい。発表者がいなくても、ポスターを見れば一通りの内容はわかるから、あとで連絡先を頼りに、尋ねてみてもよい。これがポスターセッションといわれる発表形式で、最近の学会では、発表の多くをポスターにして、口頭発表の時間をむしろたっぷりととるように工夫されている。発表する側からみても、決まった時間のプレゼンテーションではないために負担が少ない。

 とはいっても、今回のポスターセッションはなかなかたいへんであった。まず、会場が狭い! 会場は、ホテルの地下にある宴会場のようなところを一部屋丸ごと借り切っていたのであるが、ポスターがあまりにも多いせいか、通路は2人分の幅くらいしかなかった。このため、誰かが説明をはじめて、そこに人だかりができてしまうと、そこから先へ通り抜けることができないという事態が各所で発生した。

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<写真.7>ポスターセッション会場
本当に狭くて人でごった返している。

 今回は、私と吉川さん(JSGA副理事長)が、美星スペースガードセンター及び小惑星探査のBATTeRSプロジェクトなどの紹介を持ってポスターセッションに臨んだのである。ポスターセッションでは、割り当てられたポスターの大きさが重要である。今回事前に割り当てられていた大きさは90cm×110cmというスペースである。これはポスターセッションとしては比較的小さい。ということは、あまりたくさんの内容を発表できないということである。 しかし現地に着いてみると、実はこの大きさのスペースの下にまだ余裕がある。多少ゆとりを持ってポスターを作ってきたのが幸いした(勝負成功?)。ポスターといっても、実際にはA4の紙が16枚である。従って、ボードにこれを画鋲で張りつけなければならない。この作業が意外に面倒である。私みたいに背の低い人間にとっては、ボードの上の方に画鋲を刺すという行為はかなり過酷であった。

 ポスターセッションは、火曜日と木曜日の夜、というのがオフィシャルな日程であった。しかし実際には、セッションが終わると毎日、夕食までの時間にポスター会場をのぞきに来るお客さん(もちろん参加者)が大勢いたため、私も毎日ポスターに立ち続けることにした。我々のポスター会場は、ちょうど宴会場の壇上で、見晴らしがよかった。そのせいもあるのだろうか、かなりいろいろなお客さん(参加者だって)が立ち寄ってきてくれた。特に、海外で観測をされている方には美星のプロジェクトはたいへんな興味を誘うもののようで、しきりに望遠鏡の内容やデータの処理に着いての質問が飛んでいた。またこれまた幸いなことに、我々のポスター用ボードの近くに電源コンセントを発見した。そこで、持参していたコンピュータを使って、小惑星発見用ソフト「アステロイドキャッチャーB-612」の英語版のデモもついでに流してみた。こちらも非常に興味深げに眺めていく人が多く、ポスターを見てからこのパソコンの画面をのぞき込んでいる人がたくさんいた(但し、実はデスクトップ上の神秘の東洋文字に惹かれた、という人もいたかもしれないが)。小惑星観測のデータを教育目的で活用する、という試みに対しては、賛同したり興味を持ってくれる研究者が非常に多く、私の説明も、半分以上はこちらの方に費やされた。やはり国際的に、「教育」という視点の重要性は認識されているのだということを痛感させられる。

 かくして、毎日1時間半は立ちっ放しのポスターセッションであったが、美星のプロジェクトを世界に知らせる、という意味では、まずは大成功だったといってもよいだろう。
(次号につづく)