ASTEROID
The Journal of Japan Spaceguard Association
Vol. 11, No. 4 November 2002, Founded in May 1992.
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図5は、磯部の論文で示した模式図であるが、観測期間が長くなれば誤差楕円は飛躍的に小さくなることは明らかである。つまり、危険な小惑星を見つけても、もう少し観測を続けた後であれば誤差楕円は小さくなり、大部分の場合、地球はその外側に来て、衝突しないと言え、内側に入ればはるかに高い衝突確率を示せ、例えば10分の1より大きくなれば、本気で衝突を防ぐ対策を考えなければならなくなる。
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図5 短期間の観測では、将来を予測した時の誤差楕円は,はるかに大きいが、少し長い期間の観測を利用すると誤差楕円は一挙に小さくなる。
2002NT7の場合、7月28日にオーストリアのアマチュア観測家のデータが1つ加わって、衝突確率は一挙にほとんどゼロになったのである。
2002年は7月24日が満月であった。満月の時には、背景の空が明るく、暗い天 体の観測は ほとんどできない。 たった10日余りのデータで 衝突確率が大きいと言わないで、次の新月近くまで観測を続けてから発表するということを、少なくともやるべきである。3年余りの観測があれば軌道決定精度が上がり、衝突確率で10分の1のレベルまで正しく予測できるのである。20年も先の地球衝突であれば、そのくらいの期間待って発表しても十分であると私は思っている。
ちなみに、2002NT7は2019年の衝突確率はほとんどゼロになったが、100万分の1の衝突確率レベルでは、2044年2月1日、2053年1月31日、2060年2月1日、2067年2月1日に衝突する可能性が残っている。2019年の衝突報道をいったんは信じた人が、これらのまだ消えていない可能性をも信じるであろうか。
4 見失ったNEA
アメリカ、ニューメキシコ州にあるLINEAR望遠鏡を始め、アメリカのいくつものチームが次々とNEAを発見して、現在では1600個を越えている。
1998年7月26日にスペース・ウォッチ・チームが発見した1998OX4は、2014年に地球衝突の可能性があった。しかし、2002NT7のように次々と観測がなされなくて、結果的には見失ってしまった。このNEAは、直径200m程度で衝突するとかなりの被害が出るもので、見失ってしまったことは重大な問題であった。
NEAはその名の通り、地球に接近する。すると、同じ速度であっても天球上で見える方向は短時間に大きく変化する。短期間の観測で、軌道決定精度が悪いと、予測位置とかなり離れた位置に行ってしまって、再検出に失敗する可能性が高い。これが1998OX4の場合であった。
アメリカのNEATチームが、8月6日にこのNEAを再発見した。これにより、軌道決定精度は一挙に良くなり、もはや2014年の衝突の心配はしなくても良くなった。
今回の再検出がNEATチームによって偶然になされたことには問題は残るが、3節で述べたように4年近い観測期間があるので、一挙に誤差楕円が小さくなったことがわかる。
5  西暦2880年の小惑星の地球衝突の可能性
NEA1950DAは、リック天文台のカール・バーターネンが1950年2月23日に発見したが、たった17日間の追跡観測後、見失われてしまった。そして、見失われた小惑星として扱われてきた。2000年12月31日にローウェル天文台のLONEOSチームが再発見し、小惑星センターの計算により、両者が同一のものであることが明らかにされ、小惑星番号29075が与えられた。
これだけ長期間の観測であったので、軌道がかなり良く決まり、地球に月までの距離の20倍(約70万km)に近づいた時にアレシボの300m電波望遠鏡でのレーダ測距観測が行われ、その軌道精度は一段と向上した。
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