ASTEROID
The Journal of Japan Spaceguard Association
Vol. 11, No. 4 November 2002, Founded in May 1992.
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6  明るくなった NEA 2002NY40
2002NY40というNEAは7月14日に発見され、8月18日に地球に50万km近くにまで接近する。このNEAは直径1kmと大きいので、9等星くらいまで明るくなるので、双眼鏡で見ることができると言われていた。通常、小惑星は 17 等級とか18等級であるので、かなりの口径の望遠鏡によるCCD観測でしか見ることができない。2002NT40はNEAとしては初めて双眼球で見えるものとして多くの人から期待された。しかし、よくよく考えてみると、実際に見ることはかなり難しいものであることがわかる。最接近前後では1時間に8度も移動するので、その時刻にどの方向にいるかが前もってわかっていないと見ることは難しい 。図6は 美 星スペースガードセンターで撮影したもので、たった5分ほどの間に画面上を次々と移動しているのがわかる。
このようにNEAが明るく見えるのは50年に1回程度で、前回には2001CU11が1925年8月31日に2002NY40と同じくらい明るくなっているが、まだ発見されるはるか以前であるので、誰も見ていないのは当然である。
2002NY40が見えなくても残念がる必要はない。もし、衝突すれば、昼間の空でも強烈に輝く光を示し、人類絶滅の可能性もあるからである。
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図6 美星スペースガードセンターで2002NY40を撮影した5分間の14回の観測を重ね合わせたもの
撮影:2002年8月18日01時09分58秒〜01時14分51秒(JST) 露出:8秒 14枚(ほぼ20秒間隔:25cm反射+CCD)。
1ピクセルがおよそ2.3"のスケール、上記画像は400 400ピクセル(約15分角)にトリミング. 地球からおよそ130万km(地球から月までの距離のおよそ3.4倍)を1時間に約1.5度(角度)の速さで移動中(背景は「いるか座」)

7  おわりに
ここに示したように、NEAの検出の努力をする中で、発見した時には通り過ぎていたり、数十年後に衝突する可能性があるケースはこれからもますます多くなるであろう。そのような報道に接した時、そのNEAがここに示した各ケースのどれにあたるかをよく吟味して欲しい。
NEAの地球衝突を避ける唯一の手段は、地球に接近する危険な小惑星を全て検出し、軌道を確定することである。NEAの軌道が数年間の観測によって確定すれば、将来約100年にわたる期間の衝突確率の予報をかなり正確に出せるのである。30年以上先に衝突するとわかってもちっとも慌てる必要はない。10年間で軌道を変える方法(そのNEAの物理的な性質を調べることを含めて)を開発し、次の10年間に軌道変更探査機を次々と打ち上げれば、NEAは次の10年の間に衝突軌道から徐々にずらすことができるのである。NASAの目標の1km以上のものを90%以上見つけるというのを100%見つけるとしなければならないが。
一方、現在の観測システムは直径1km以上の小惑星検出を目標に作られている。直径100mでも衝突すれば十分大きな被害が出、その数もはるかに多い。そのような人類絶滅とはいかないまでも、オランダ等の小さな国一国を吹き飛ばしうるNEAの検出には、より高価なシステムが必要となる。100m NEAの衝突確率は1kmのものの1万倍近く高い。それらを防ぐ方法は1km以上のNEAと同じであるが、システム構築の費用は、はるかに高くなる。このようなまれにしか起こらない高い被害レベルのリスクに関する研究は始まったばかりであるし、多くの人の理解を得るところから出発しなければならない。日本スペースガード協会はその一端を担って努力しているところである。
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