ASTEROID
The Journal of Japan Spaceguard Association
Vol. 11, No. 4 November 2002, Founded in May 1992.
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天文学が明らかにしてきた宇宙は、この落語の話とそっくりである。その最初の証拠は1929年にE.ハッブルによって見つけられた。宇宙に散らばっているたくさんの銀河を調べたところ、地球(実際には地球も太陽も含む銀河系)からの距離に比例した速さで遠ざかっているのである。300万光年(速度が毎秒30万kmの光が1年間に走る距離を1光年という)の銀河が毎秒約50kmの速度で遠ざかっているのである。これは宇宙が膨張しているという考え方を支持する。時を過去にたどると300万光年の距離にあった銀河が150万光年という近い距離にあった時代があり、 それと 同じように600万光年のものは300万光年にあったことになる。つまり、あらゆる銀河が過去にたどるにつれて、一点に向かって集中していく。結局は、ある一定時間の過去(約150億年前と求まっている)に全てが一点にあったことになる。
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図2 ハッブルが見つけた銀河の距離と後退速度の関係
(E Hubble 1929: Proc. Nat. Acad. Sci., 15, 169)
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図3 宇宙にあるいろいろなもののサイズ。

宇宙全体の物質が一点に集まっているということはどういうことであろうか。人類どころか、その素材となる原子すら、その形をとどめられなくなる高温、高圧であった。量子力学では、ものの存在・非存在は確率的に決められる。10〜25cmというプランクサイズのレベルになると、存在・非存在が確率0.5で起こるようになる。つまり、そのくらい小さかった私達の宇宙は何もない世界・無の世界から突然出現できる ようになる のである。その瞬間に、現在人類を含み込む空間と時間が創り出されたのである。
誕生後の宇宙は、高温・高圧のために急速に膨張する。
これを“ビッグ・バンの大爆発”と呼んでいる。繰り返すことになるが、私達の宇宙はこの時に創られ、150億年間、膨張を続けて、現在の宇宙をもたらしているのである。
3 原子の生成
宇宙の誕生の時から、人類やいろいろの物体を構成する原子があったわけではない。ビッグ・バンの大爆発の頃には、現在宇宙にある全ての物体、星、銀河が一点に近い空間に押し込められていたのである。何兆度、何京度という高温・高圧になっていて、原子のままの形では存在できない。素粒子に分解し、さらにはエネルギーの状態になって押し込められていた。
宇宙が膨張する中で、電子・中性子・陽子が形作られた。陽子と電子が結びついたものが水素原子である。宇宙の温度が3000度位になるとこの結合が起こり、水素原子が形作られる。 それは ビッグ・バンの爆発後、3000年位経った頃で、それより以前は光が陽子や電子に衝突することにより曲げられ、宇宙全体が霧がかかったようになっていた。これは、大家さんが言った霧がかかって何も見えないという話と同じである。
いろいろの原子の原子核(水素原子の場合は陽子)が次々と原子核融合反応を起こす。その際、エネルギーを放出するのである。太陽は、その中心部分で水素原子核がヘリウム原子核に変わることによってエネルギーを作り出し、あのように明るく輝いているのである。そのような変化を効率よく起こす温度が1500万度というものである。
さらに次々と原子核融合反応は起こせるが、そのためにはより高温が必要になる。宇宙の膨張の時には高温状態から温度が下がってくる。例えば、酸素の原子核を作ろうとしても、材料となるネオン原子核がまだ作られていない。そうこうするうちに温度が下がって、そのような反応は起こせなくなる。
結論として書けば、宇宙の初期には水素原子とヘリウム原子しかなかったのである。他の原子は、その後に何らかの方法で作らなければならない。その方法は徐々に温度を上げていくことである。
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