月刊コートダジュール(5月号)

   働かないニースの5月

       2025年6月16日 紅山 仁 (コートダジュール天文台)


5月はニースのベストシーズンだ。ある快晴の日、日本にいる友人に写真を送ったところ、そんなに晴れていると憂鬱な気持ちになることはできなさそうとの反応が返ってきた。セロトニンの量を測ったわけではないが、実感としてその通りだと断言できる。実際、自分自身がその一例である。初めての海外生活で、丁寧でひたすら時間がかかる行政手続き、頼りない水回り、上達しないフランス語。そうした面倒ごとさえも楽しめているのは、ニースの快晴に支えられているからにほかならない。中高生の頃は天気など気にも留めなかった。天気が良いだけで幸福を感じられる。これは歳をとったことの裏返しかもしれない。

日本で「5月といえば?」というアンケートをとったときに上位に入るものの一つはゴールデンウィークだろう。残念ながらフランスにゴールデンウィークはない。ただしフランスの5月には祝日が3日ある。2025年は全ての祝日がたまたま木曜日で、休日に挟まれた平日は有給推奨日となるローカルルール(?)により週末以外の6日間が休みとなった。これを機に、日仏の有給制度について調べてみることにした。日本における有給の最大付与日数が年間20日に対し、フランスでは30日が基本らしい。2025年の祝日の数は日本では19日、フランスで11日である。祝日が土日と重なることを無視すれば、有給と足し合わせて、日本では39日、フランスでは41日が追加の休みとなる。こうして比べてみると日本も悪くないような気がして、日本文化が好きな同僚に自慢げに伝えてみた。すると少しあきれたように「フランス含むヨーロッパでは8月に一ヶ月バカンスをとることが多いが、日本では連続して休暇をとることは現実には難しい。また休暇取得率も明らかに低いのでフランスとは大きく異なる。」と言われた。まだ日本で働いたことはないが、調べてみると同僚の言う通りのようなので、フランス人は働かない、というのは本当のようだ。

そんなわけで、休日が多く天気も良い5月には、ニースの海岸沿いにある展望台 Point de vue Colline du Ch?teau に登り、観光客にまじって海岸を眺めたりもした。人生で忘れられない景色がいくつかあるが、2年前に初めてニースに来た時にここから見た景色も、その一つだ。もちろんコートダジュール天文台の研究者と共同研究したいという気持ちもあったが、ニースの景観が心を決めた理由の一つであったことを思い出す。1年経っても変わることのない街並みを改めて味わい、この時間がいつまでも続いてほしいと思う。ただし何事も思い通りにはいかないようで、2年前には裸眼で楽しめた景色は、今は眼鏡なしではぼんやりとしか見えない。やはり歳をとっているようで、気づけば30代が目前に迫っている。展望台で景色を楽しんだ帰りには、旧市街と海岸の間にある Cours Saleya (サレヤ広場) のマルシェで野菜と果物を買い込んで帰路についた

 

写真1.Point de vue Colline du Ch?teau からの眺め。コバルトブルーの海とカラフルな建物とのコントラストが美しい。5月になるとすでに多くの観光客が海を満喫している。

 

写真2. Cours Saleya のマルシェに並ぶ新鮮な野菜。こちらも朝早くから多くの観光客で賑わっている。