IMPACT Workshop in Torino

                 磯部 しゅう三(JSGA会長/国立天文台)


IMPACT Workshop がイタリアのトリノで6月1日-4日に開催された。これは、国連, IAU, NASA, ESA, The Planetary Society や地元を含めた共催で行われた。この会の主な目的は、1997XF11 や 1999AN10 のような地球に衝突する可能性のある小惑星が見つかった時にどのように対処するか(特にマスコミに)の方向性を示すものである。ここで決定された事が IAU の組織委員会から国連の UNISPACE III で提案し、国際的な合意を得る予定である。

まず、世界における NEO の観測望遠鏡の紹介がなされた。フランスの Alain Maury が作った表を示しておく。アメリカの LINEAR に次いで、美星スペースガード天文台(仮称)が夜空を効率的に掃天しうる事がわかる。

しかも、会議中に、これまで1kmサイズより大きな地球近傍小惑星(H=18.0等)の検出には19等級くらいまで写れば良いと考えられていたが、実際にはかなり遠い所にまで分布している事がわかった。そして、結論として20.5等星までに観測を深めようという事になった。そのため、LINEAR は露出時間を4倍以上かけなければならなくなり、全体の能率としては美星スペースガード望遠鏡の方が勝っている事が示された。

IMPACT Workshop でのパネル・ディスカッション  左から Dave Morrison (USA), Andrea Carusi (Italy), Brian Marsden (USA), Karri Minnounen (Finland), Andrea Milani (Italy), Edward Bowell (USA)

私はいくつかの国際会議で、私たちの望遠鏡がいかに優れているかを示してきたが、やっと今回わかってくれたようで、それまではあまり接触してこなかった NASA のお偉方が、美星スペースガード天文台との共同観測を呼びかけてきた。私達の望遠鏡が実際に動くようになれば、そのための覚書も作らなければならなくなるであろう。

アメリカ, 日本に比べてヨーロッパの観測体制はかなり弱い。そこで、ヨーロッパは NEO 望遠鏡を積極的に建設するべきであるとの要望書を作る事になった。私は日本の望遠鏡は名目上スペースデブリのためのもので、単に観測時間を NEO にも得ているだけ(だけといっても、全観測時間の70%近く使える事になっているが)で、NEO の観測研究体制を組織としては確立していないので、日本に対する要望書も欲しいと主張した。

1999AN10 に関しては Andrea Milani が詳細な経過説明をした。私の感想としては、研究者として早急に論文にしようとしたのは良いが、Milani のウェブページを見た人が騒ぎだしたが、衝突確立が10^-7しかないのに直ぐにワイワイ騒ぐのはおかしいと思った。これに関連して Richard Binzel が災害指数という考え方を提案したが、レベル8, 9, 10は衝突確立が0.9以上でかなり意味があるが、それ以外ははるかに小さいし、衝突する時期も数十年先の話であるので、当面は騒ぐ必要は無く、数年をかけて追跡観測を行えば確率をもっと正確に決められる。そこで、私は衝突確率0.5以下のものは当面衝突する可能性は殆ど無いと断言して、マスコミに早とちりさせないようにして、追跡観測を充実するべきであると主張した。この問題は幹事会で議論される事になったが、私としては結論が少し心配である。

会議中もっとも緊迫したのは、Milani と Brian Marsden の応酬であった。小惑星の発見は二晩の観測があって始めて MPC に公表されてきた。しかし、Milani 達理論計算をする人は、全てのデータを MPC が直ちに(24時間以内に)公表するべきであると主張した。しかし、MPC 側は、そのような早い公表の体制は無く、そのような要求をするならあと2-3人分の人件費を提供して欲しいと主張した。これはもっともである。Marsden と Gareth は毎日十数時間も働いているのである。MPC 側が主張したもう一つの点は、観測者が一晩だけでは自信が無いので発表しないで欲しいという要求があるとの事であった。

かなり大声での激論が交わされ、かなり厳しいムードになったので、私は「観測者と理論家の協力無しにはスペースガードを進める事が出来ない。観測者自身が公表しないで欲しいと言っているのに無理矢理公表すべきではない。一方、観測者が公表しない事を要求していない場合は、各方面で協力して MPC の運用費が出せれば MPC は速やかに公表すべきである。」と述べた。そしてこの方向で結論へと結びつけられたので、ホッとした。

4つの分科会(1. 位置観測, 2. 物理観測, 3. 軌道計算, 4. 国際協力)でのそれぞれの要求が出され議論された。それを受けて幹事会が最終案文を作る事になっている。国際的にはいろいろと NEO 問題が進みつつある。しかし、日本もある面では決して遅れている訳ではない。日本スペースガード協会をより充実させて、世界の他の国のグループ(NASA 等)と対等な関係で協力していきたいものである。

           会場前にて Brian Marsden と私


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