ASTEROID
The Journal of Japan Spaceguard Association
Vol. 11, No. 4 November 2002, Founded in May 1992.
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紀行
超新星を発見した土井隆雄さんの天文台訪問
磯 部  しゅう 三
宇宙飛行士の土井隆雄さんが超新星を発見された。10月12日のことです。私は、10月10日から19日までアメリカのヒューストンで開催されたワールド・スペース・コングレスに出席のため当地に滞在していた。ヒューストンのジョンソン宇宙センターの近くに土井さんは7年あまり定住しておられ、また日本スペースガード協会の会員で、次期理事に就任していただくようお願いしていたので、滞在中是非お会いしたいと思っていた。日本宇宙フォーラムの寺門邦次さんもおいでになっておられ、着いた途端に、18日に土井さんを囲んだパーティーをセットしておいたと言われた。私は、19日の便で日本に帰国予定だったので、12日の土曜日か13日の日曜日にお会いできるチャンスがあればと思っていたが、そういうことであれば、多忙な土井さんの日程に合わせて、18日にお目にかかることにした。
18日の午後3時に、コングレス会場前に総勢6人が土井さんと奥様のひとみさんとお会いして、久しぶりの再会の挨拶をした。そして、車に分乗してハイウェーを西に走りはじめた。土井さんの家は、ヒューストンの東南の方向で、どこへ行くのかと聞くと、土井さんの天文台に行くとのことであった。300km離れた隣の都市のサンアントニオとの中間の木々が繁った細い道に入ってしばらく走ると、牧場の牛止めのような門があり、そこから300m位入ると天体観測ドームとそれに附属した立派な観測室兼家屋が見えてきた。
3万坪もある広大な土地で(ちなみに土地代は500万円程度とか)、境界を全部見て囲っていないとのことであった。中心部(それでも200m×200m)の所だけを草刈してあった。草刈りのために、わざわざトラクターを買ったそうで、観測所に来るたびに2〜3時間草刈りをしているそうである。
天文台のまわりがテラスになっていて、そこでパーティーが開かれた。天候もよく、気温も良かったので、最高のパーティーであった。そこで、土井さんが1週間前に口径30cmの望遠鏡を使って超新星を発見したと発表されたので、パーティーはより盛り上がった。観測室に入り、発見時のCCD画像を見せてもらった。土井さんも天文少年で、何十年もコツコツと観測を続けてきたが、今回が初めての成果であった。
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・天文台前のテラスでパーティー

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・土井隆雄さんの天文台にて
左から、渡部潤一、磯部しゅう三、土井隆雄
土井さんは、シャトルによる飛行が大分遅くなっていた頃、私に大学院に行きたいという希望を示しておられたので、私が行っていた天文学と同じオリオン星雲の観測的研究の第一人者である、ヒューストンにあるライス大学のオデール先生を紹介した。そして、シャトルの飛行のために中断していたとはいえ、ここでもコツコツと研究を続けて、修士論文を完成されていた。それは、ハッブル宇宙望遠鏡を使った、オリオン星雲の微細構造の研究で、星の誕生のメカニズムの解明にとって大きな一歩になるものであった。私も20年も前のことではあるが、オデール先生と競って、この方面の論文を書いていたので、土井さんが今新しい分野を切り開き始めているのはとてもうれしかったが、一方ではキットピーク天文台の4m望遠鏡等の一級の望遠鏡を使える土井さんがうらやましくもあった。
土井さんには、次のシャトルへの搭乗もしてほしいが、早く博士論文も完成してほしいと思っている。IAUサーキュラーに、土井さんの超新星の発見の報が載った直後に、オデール先生がお祝いとともに、「君にはそんな観測をしている暇はないはずだが」と言われたそうである。私もその言葉には賛成であるが、日本スペースガード協会の理事という仕事を一つお願いしようとしているので、少々複雑な気持ちである。
土井さんは、ウィークエンドにひとみさんと二人で、気分転換のために観測しておられるようである。宇宙飛行士の訓練の大変さをよく聞かされているので、そのような気分転換は欠かせないであろう。その気分転換の方法が天体観測だったということは、天文コミュニティーにとっては幸いなことである。もちろんひとみさんも、天体観測大好き人間で、キットピーク天文台にも一緒に行っておられる。
今度は是非、美星スペースガードセンターに来てもらいたいと思っている。
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